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4ゴールを奪うも、終始拭えなかったビルドアップの不安定感の要因とは。日本対トルコ戦術分析

2023.09.14

日本代表欧州遠征2023徹底分析#6

カタールW杯でベスト16入りした森保一監督率いる日本代表は、続投が決まった指揮官の下で新チームが始動。「ポゼッションの質を上げる」ことを新たなテーマに掲げ、特に[4-3-3(4-1-4-1)]で臨んだ6月のエルサルバドル(〇6-0)、ペルー(〇4-1)との2連戦では新しいチャレンジへの可能性を感じることができた。9月のドイツ、トルコとの2連戦は、第二次森保体制の最初の分岐点になるだろう。約4カ月後のアジアカップ、そしてその先のW杯予選に向けて、様々な角度から欧州遠征を分析してみたい。

ドイツ撃破の余勢を駆って臨んだトルコ戦に4-2で勝利した日本。中2日の日程もありメンバー10人を入れ替えたチームが採ったアプローチと、一時3-0としながら追い上げを許した理由、ピッチ上での攻防の詳細を、『森保JAPAN戦術レポート 大国撃破へのシナリオとベスト8の壁に挑んだ記録』の著者らいかーると氏が紐解く。

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 スタメンが大幅に入れ替わった日本。注目はどのようなサッカーをこのメンバーに行わせるか?でした。“[4-2-3-1]の配置のままだとビルドアップが苦手”問題と、“相手の可変ビルドアップに対して[4-4-2]ではイマイチ”という弱点が、この試合では顕在するのかどうか。

ビルドアップ、プレッシング両面で見られた不一致感の理由

 トルコはアンカーのサリフ・エズジャン、左インサイドハーフのオルクン・コクチュがCBの傍まで下りてくることで、ボール保持の安定を図ります。中盤の選手がCBの傍に立ち位置を取る代わりに、SBの選手は高い位置に移動。堂安律や中村敬斗を後ろに引っ張る狙いがあったのでしょう。日本の苦手なタイプの可変式を、トルコは試合早々から行ってきます。

 一方で日本は、ゴールキックでGKに戻してじっとする形が目立ちました。ドイツと比べると高い位置からプレッシングをかけてくるわけではないトルコに対して、ボールを持たされたGK中村航輔とCBの谷口彰悟、町田浩樹がビルドアップの出発点となる噛み合わせになっていました。

 日本のビルドアップは、定形の型を持っているようには見えませんでした。久保建英が下りてくることで伊藤敦樹、田中碧、久保の3センターのような形になる場面が多かったのですが、それぞれの立ち位置が重なることもあれば、田中、伊藤敦樹は2センターのつもりでプレーしているのに久保は3センターのつもりでプレーしていて、その誤差がビルドアップの精度を落とすことに繋がっていたように見えました。

 次に日本のプレッシングを見てみると、序盤はハーフウェイラインをプレッシング開始点とするミドルプレッシングでスタートしました。トルコが[4-3-3]風味で来ることはスカウティングしていたのでしょう。久保か古橋亨梧がアンカーを見る役割になっているようでした。ただ、先述したようにアンカーだけでなくコクチュも列を下りるプレーを行うことから、日本の守備の役割が少しぼやけるかみ合わせになっていました。ミドルプレッシングでのスタートは最初からそのつもりだった可能性もありますし、コクチュもポジションを下げることからトルコのビルドアップの様子を見たかったからかもしれません。

両サイドハーフと久保の機転

 延々とトルコにボールを持たせることは、日本からすると悪手になりそうな気配が漂っていました。この状況に対して、両サイドハーフの堂安、中村が広がった立ち位置を取り相手のCBや立ち位置を下げる中盤の選手に対してプレッシングをかける様子が見られました。後ろの選手に1対1を受け入れてもらう姿勢は、ドイツ戦と共通しています。

 堂安たちの機転によってトルコのビルドアップに対抗できる枚数を担保できそうな日本がじわじわとプレッシングラインを上げていく展開となりますが、トルコも無理はしません。1トップのベルトゥ・ユルドゥルムにためらいもなく放り込んで、セカンドボール争いから個々の推進力を全面的に押し出してくるようになります。日本が地上戦を臨むならと、空中戦からのセカンドボール争いに狙いを変えたようでした。

 この段階では、日本のビルドアップの立ち位置整理は行われませんでした。久保がどちらかのハーフスペースに立ち位置を設定し、古橋も似たような立ち位置を取ることが増えていくのですが、内側に侵入したいサイドハーフと持ち場が重なる場面が頻出。配置だけを見るとブライトン感があったのですが、中村や堂安がサイドで起点となり裏抜けを愚直に行う雰囲気はなく、結果として中央に人が集まってくる流れになります。

 11分には、トルコにビルドアップからフィニッシュまで華麗に持ち込まれます。アンカーのエズジャンがサリーダ・ラボルピアーナを実行することで、3バックに変化した際に生じた隙を狙われた格好でした。ドイツ戦では相手の3バックに4バックで耐え抜きましたが、メンバーを変更するとまだまだ3バックでビルドアップしてくる相手に対して適切なプレッシングを設定することは難しいようです。……

日本代表欧州遠征2023徹底分析

Profile

らいかーると

昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。