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【特集総論】Jリーグと欧州サッカーの戦術的符合は、なぜ起こる?

2023.06.25

Jリーグと欧州サッカーの戦術的符合#5

世界中のサッカー映像が簡単に見られるようになった現在、欧州サッカーのトレンドは瞬く間に世界中に波及するようになった。もちろん、Jリーグも例外ではない。目の前の試合に勝つために「対策」を繰り返していけば、おのずと行き着く答えは同じ。ポジショナルプレーへの対抗策としてマンツーマンハイプレスを採用するチームが増えれば、それに対するビルドアップの外し方も研究されていくことになる。今特集では「Jリーグと欧州サッカーの戦術的符合」と題して、Jクラブの戦術(の一側面)と合致する欧州クラブを探してみたい。#5は、特集の総論として「Jリーグと欧州サッカーの戦術的符合が、なぜ起こるのか?」について思いを巡らせてみたい。

「日本人に合ったサッカー」という議論

 どうも我々は、自分たちが特殊であると思いたいらしい。日本人特殊論の始まりは五千円札でお馴染みの新渡戸稲造からだが、そもそも「武士道」は英語で書かれて米国で出版された本であり、西洋的な視点での都合の良い日本人論であるという批判が当時からあったそうだ。その後も日本人特殊論は根強く、サッカーでいえば「日本人に合ったサッカーとは何か」という議論がある時期まで行われていた。

 確かに国民性や文化に日本独自のものはあるかもしれないが、世界のどの国もその程度の独自性はあるものだ。他との大きな違いは主に気候や風土に適応した生存戦略に起因する。日本人とモンゴル人は人種的に近いけれども、代々隣近所に同じ家系の人々が住んでいて村から外へも出られず「村八分」が何より恐いという環境と、遊牧民では自ずと生き抜くための方法が違ってくる。生存に有利な行動や性格や文化が異なり、人種的な差異ではない。外国に数年間住んでいた実感から言うと、パリとフランスの田舎よりパリと東京の方が似ている。

 文化や性格が環境に左右されるのはサッカーも例外ではない。

 イングランドとスペインのバスク地方のサッカーはロングボールとフィジカル重視という共通点があった。どちらも雨が多くフィールドが泥沼化しやすい環境だ。一方で、同じ英国でもイングランドとスコットランドは戦法が対照的だったことで知られている。スコットランドのショートパス戦法はイングランドのロングパス戦法に対抗するためと言われているが、スコットランドは風が強いのでロングパスが使いにくかったという説もある。ともあれ、それぞれの国や地方で勝利のために有利なプレーを選択していったに違いなく、それがプレースタイルの違いになっていったと考えられる。

EURO2020グループステージで実現したイングランド対スコットランドのカード。イギリスダービーはスコアレスドローで幕を閉じた

 かつては国や地域によってプレースタイルに特徴があった。欧州と南米には違いがあり、同じ南米でもブラジルとアルゼンチンでは異なるというように、気候風土に始まった違いは伝統として受け継がれていた。ところが、近年は環境自体が似てきていて、どうしたら有利かという生存戦略も似てきている。……

Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。