4万人からの今。第40節3万3千人動員への道
特集:新アルビスタイルの真髄に迫る#5
アルビレックス新潟はかつてJリーグナンバーワンの観客動員数を誇っていた。ホームスタジアムを4万人のサポーターが埋めることも少なくなかった。しかし、2017年のJ2降格を受け2018年からJ2へ戦いの舞台を移してから風向きが変わる。選手の移籍や成績不振、たび重なる監督交代、戦術・戦い方の試行錯誤が続き、J1昇格争いにすら参加できないシーズンが続き入場者数は減少。さらに2020シーズンのコロナ禍以降、人数制限がかかり、4万席のスタジアムは空席が目立つようになっていった。
2022シーズン、アルベル監督から引き継いだ松橋力蔵監督はチーム立ち上げ時に昨季のホーム最終節の写真を見せて「今年は、これを満員のお客さんの中で、全員で撮ろう」と選手に伝えていた。結果、J1昇格が懸かった試合では3万3000人の観客動員を達成。見事J1昇格を成し遂げた。V字回復となった観客数の裏に何があったのか。アルビレックス新潟のチケット担当白川直人さんに話をうかがった。
――まずチケット担当のお仕事について教えて下さい。
「チケットの販売管理、集客の仕掛け、キャンペーンが主な仕事です。優待チケットや招待チケットの管理なども行っています。一度来てくださった来場者がまた来場してくださるようにいろいろな施策を行ったりもします」
―― 新潟と言えば以前は4万人動員など、Jリーグ1の観客数を誇っていた時代もありました。あらためて、新潟の観客動員の変遷について教えてください。
「2002年W杯日韓開催の招致により、2001年にビッグスワンが誕生しました。新潟のみなさまに一度はスタジアムを利用していただき、サッカーとは何ぞや、Jリーグとは何ぞや、ということを理解していただく、あるいはアルビレックス新潟を知っていただくために、大招待活動を実施しました。自治会配布や企業等にチケットを配布し、無料でいいから見に来ていただく。
前述のW杯、前年のコンフェデレーションズカップの盛り上がりや、2001、2002、2003とJ1昇格争いに絡んだこと、結果2003年に昇格する流れが重なって大きなうねりとなりました。無料で招待していた方にもだんだんとチケットを購入いただけるようになり、結果的には当時Jリーグで最も入場者数の多いクラブになりました。20年の時を経た今も、当時から応援してくださる方が多く、またその方がご家族を連れてきてくださる流れもあります。年齢にかかわらず今は来ていなくても以前アルビに行ったことがあるという人は、かなり多いのではないかと思います」
――今季の目標は掲げていたのでしょうか?
「2021シーズンは平均来場者数が約1万人だったのですが、そこから約2000人増やすことが目標でした。平均来場者数1万2000人を目指すとなるとだいたい新規のJリーグIDの獲得を1万5000アカウント取ることを目指す必要があります。去年と同じような順位で推移したときに、どのような仕掛けを作れば目標数字が達成できるのかを考えてやっていました。
2021シーズンにチケットを発行したJリーグIDは1万9000アカウントでした。一部のアカウントはどうしても離れてしまうので常に新規の上積みは必要になります。新規で7500人ぐらいの購入者を上積みしたいとなった時に、大体1万5000の新規JリーグIDアカウントを獲得できれば7500アカウントは発券してもらえる計算で目標を立てました。結果としては2万以上の新規JリーグIDを獲得しました。やはり、無料招待などの企画を行うとJリーグIDの新規は増えます。夏場に無料招待を行い、そこで新規IDを大きく獲得でき、最終的には2022シーズンは2万3000ほどのJリーグIDを獲得できました。2021シーズンは1万2000ほどだったので、約倍近い新規ID獲得になりました。昨年も今年もJ2では新規獲得ID数は1位ですが、J1と比較すると桁違いです」
――コンビニの紙チケットからJリーグIDに移行するのは高齢者の方からクレームがあるとも聞きますが、新潟はどうなんでしょうか?
「2020シーズンから、チケットはインターネットでしか買えなくなりました。コロナ禍の中で来場者もすべて把握しなければならなくなったので、招待もインターネットで管理することが求められたのです。その理由が背景にあるので、JリーグIDを新規作成することへのクレームは少なくなりました。以前は往復はがきで申し込みを受け付けて、それを手入力して、さらに当日チケットを手渡しで交換するという作業が発生していました。8、9月に一度その往復はがきの応募も復活させてみたんですが、今までの1、2割程度の数字でした。ご年配の方もお孫さんにやってもらうなど、みなさんなんとかしてインターネットでやっていただけるようになりました。
その結果、購入者がどなたで、いつどんなチケットを買って来場したかどうかの把握ができるようになったのです。そのデータを活かして、未来場の方を来場へ、1回来場の方を2回目へ、招待の方を有償へ、複数回来場の方を年間チケットへ、といった施策が打てるようになりました。コロナ前はほとんどがコンビニ購入だったので枚数はわかっても、購入している方への直接的なアプローチはできなかったので大きな進歩です」
――コロナが、世の中のいろんなことを進めたという側面はあるんですね。
「コロナ前もJリーグIDはあったのですが、チケットの売上の8割はコンビニでした。今では逆転して9割がJリーグIDになりましたね」
――JリーグIDに変わることで、チケット担当さんの手間も減るんじゃないでしょうか?
「チケット周りのことは減ります。着券率もすぐわかります。以前はチケットの半券の端っこに色を塗ってそれを手作業で確認して数えていました。今は当然そんな作業はなくて、そもそもチケット自体をあまり紙で刷っていません。ただ、入場ゲートのところでは、少し戸惑ったりというのはあります。電波状況が悪かったりなどして、スマートフォンでQRコードチケットがなかなか発券できなかったり。紙チケットはもぎるだけなのですが。
―― 他にJリーグIDになって良かったことなどありますか?
「一番は毎試合アンケートを取れることですね。固定の項目に答えていただいたり、自由記述のところに意見を書いていただいたり。おかげですぐ振り返りができます。土曜日の試合だったら月曜日には振り返りができますので、翌週にすぐ活かせます。いろんな企画の感想もすぐ確認できたり、クレームもすぐ把握できたり、改善スピードが上がりました」
「今の選手たちのいい戦いぶりを一人でも多くの方に見てもらいたい」
――反響のあった企画はありますか?
「田上大地選手が実施した、ひとり親のご家庭を支援する企画は反響がありました。田上選手自身がひとり親家庭で育ったということもあり、そういった方を招待したいという企画です。『ニイガタガミカタ』という企画名で、中に“タガミ”選手の名前が入るんですね。本当に素敵な企画で、アルビレックス新潟のことも好きになってくれるし、田上選手のことも好きになってもらえる企画でした。年に2回実施しましたが、大きな反響がありました。SNSでも話題となりましたし、田上選手自身が一生懸命やってくれたというのもあります。招待できる人数は新潟市内でチラシを配った方が多く招待できますが、それ以上に素晴らしいコンセプトを持った企画をできたことが本当に良かったと思います。こういう企画は参加してくれた方の思いが伝わってきます。田上選手は個人としても施設に足を運んだりしていて熱心にそういった活動をされています」
――逆に今季、クレームがあったことはありますか?……
新アルビスタイルの真髄に迫る
Profile
池田 タツ
1980年、ニューヨーク生まれ。株式会社スクワッド、株式会社フロムワンを経て2016年に独立する。スポーツの文字コンテンツの編集、ライティング、生放送番組のプロデュース、制作、司会もする。湘南ベルマーレの水谷尚人社長との共著に『たのしめてるか。2016フロントの戦い』がある。