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「はじまりはロアッソで」――J3で見つめ直した熊本の生存戦略

2022.08.01

特集:ロアッソ・リザレクション――もっと赤くなれ#6

2018年、ロアッソ熊本はJ2を21位で終えて、J3リーグへの降格が決定。カテゴリーを落としたことで選手の獲得が難しくなり、クラブとしてJ2昇格に向けて新たな強化プランが必要だった。クラブは織田秀和GMを中心に、あらためて熊本の強みと課題を見つめ直した。その中で見つけたロアッソ熊本の生存戦略とは? 強化担当の筑城和人氏と、育成のアカデミーサブダイレクター・原田拓氏が明かしてくれた。

左から強化担当の筑城氏、 アカデミーサブダイレクターの原田氏

――今のロアッソ熊本はユース出身選手だけでなく、大津高・福岡大出身の河原創選手のように地元出身でありながら異なる高校・大学でプレーしていた選手の活躍も目立ちます。中学年代からレベルの高い選手が多い熊本県において、どのように選手の獲得・育成を進めてきたのでしょうか

筑城「僕は2013年で現役を退き、2014年からスカウト含め強化部で働かせてもらっているんですが、熊本県には大津高校という絶対的な高校があり、まずは『大津高校をとにかく見よう』と思いました。現役時代の私は高校生・大学生がどれくらいのレベルかもわかっていませんでしたし、まずは大津高校だと。その中で、平岡(和徳)先生ともたくさんお話をさせていただいていて、今ロアッソ熊本でプレーしている河原とか杉山(直宏)の世代が高校の時によく試合を見ていました。というのも、山形の野田(裕喜)選手や徳島の一美(和成)選手には高卒の時にオファーも出していて、結局2人ともガンバ大阪に加入しましたが、その世代は本当に毎週のように試合と練習を見に行かせてもらっていたんです。それから大学に進学し、チェックしていた中で、高校の時から見てどれくらいやってくれるかがわかっていたので、声をかけさせてもらったという感じでした」

——まずは大津高校を基準にスカウトを進めていったのですね。

筑城「全国区の高校がすぐ近くにあって、そのサッカーとか選手たちを見させていただく中で、いろいろな判断基準みたいなのを作らせてもらいました」

——少し前まではユース出身選手の登用を積極的に進めている印象がありましたが、今は「熊本県から」「九州から」とスカウトの幅が広がっているように思っています。熊本県の他クラブにいる選手についてどう捉えていますか

筑城「基本的にロアッソ熊本ユースから選手が出てきてくれるのが一番ですが、熊本県は大津高校がありますし、他の高体連のチームもレベルが高い。もっと言えば中学年代ですね。詳しくは原田さんに聞いていただきたいんですが、熊本県だけでもクラブチームがたくさんありますし、指導者の熱がすごいので、熱心に選手たちを育てようというのが熊本県の中にあるのかなと思います。熊本県のジュニアユース世代の選手でロアッソ熊本ジュニアユースを選んでくれるかというと、難しいところもありますし、県外のクラブのユースチームに加入されたりというのはありますが、ジュニアユース年代から熊本県の指導者の方々がすごく熱心に指導されているからこそ、こうして育っていっているのかなと思っています」

——熊本にはブレイズやソレッソなど実績のある街クラブが多く、Jクラブのジュニアユースにとってもなかなか簡単ではない地域だと思います。そのあたりはどう捉えていますか

原田「正直、競争はジュニア年代から始まっていますね。熊本は非常にチーム数も多いですし、各監督・コーチの方の熱がすごくあって、子供たちがすごく成長していっている中で、いい人材が熊本にたくさんいるのは確かです。その中でロアッソ熊本ジュニアを立ち上げているのですが、他の街クラブの方が“老舗感”がありますし、逆にロアッソが立ち上がったことによって『いい人材を持ってかれちゃうんじゃないか』というしがらみもある中、ジュニア年代で良い選手を確保するのが難しい現状にあります。うちにも本当に良い指導者がいるのですが、どんなに良い指導があっても、やはり良いタレントが来ないことにはトップチームまでつながっていくような選手を育てていくのは難しい。

 また多くのクラブがジュニアユースまでチームを持たれているので、ジュニアの段階でお声がけするのはなかなかできません。それをすることによって、今度ユースのところで選手を送ってもらえなくなってしまうので。そしてソレッソ熊本、ブレイズ熊本のトップ・オブ・トップの選手がロアッソ熊本ジュニアユースに来るかというと、そこも熊本県では大津高校が先です。プレミアリーグというところであったり、あれだけ選手権で活躍することでメディアの発信もあったりするので、子どもたちなりに受ける影響もすごくあるようです。

 そこでどうやって選手を獲得していくかという話ですが、やはりロアッソ熊本としては熊本唯一のJクラブというところを売りにしていて、今力を入れてやっていることとしては、中学生年代の選手も大木武監督や織田GMの協力を得てトップチームの練習に参加させています。そうやってどれだけ個人を早く成長させられるかというところがJクラブの強みなので。例えば今、高校年代に道脇(豊)というU-16日本代表の選手がいるのですが、彼に関しては去年の段階でほぼジュニアユースのトレーニングではなく、ユースのチームでトレーニングしていました。またタイミングを見てトップチームの練習に参加させたりもして、そういったところの部分はトップチームの方の理解もありますし、育成を充実させていこうという動きになっているかなと思います」

——まさに今名前が出た道脇選手は全国的にも進路が注目されていたので、ユース昇格を驚く声も聞いたことがあります。彼はどのような方針でここまでたどり着いたのでしょうか

原田「まず彼はU-15の時に初めてJFAストライカーキャンプに参加しました。彼はすごく人間的に真面目で、FWとしてはちょっと真面目過ぎるかなっていうところも懸念材料なんですけど、やっぱりそこですごく刺激を受けたようで、自分たちのチームに戻ってきたと時に『トップ・オブ・トップの選手は何をやっていて、自分は何が足りないか』というのを自己分析できたことがすごく大きかったのかなと思います。それ以降、U-15の日本代表候補合宿に呼んでいただく機会も増えて、帰ってくるたびに成長しているんですよ。そういったのを見ていると、やっぱり選手が育つ環境を整えるのがまず第一だというところで、強化部やトップチームとも協議して、ユースやトップチームで練習させてもらう機会を作っていきました。彼は今、さらに成長していっているなというところで、環境を与えるのがすごく大事だと道脇に関して感じた部分です。まだトップの試合に出ることはできていないですが、大木監督からもすごく面白い選手だと評価もしてもらっているので、有望な選手にユースに来てもらって、しっかり成長してもらってトップに繋げていくというのが今の理想とするスタイルです」

2022年に2種登録された道脇は、第5節長崎戦でベンチ入りを果たしている

『ロアッソからスタート』にしてほしい

——他県ではJクラブ優勢の構図が当たり前になりつつある中、そういったところで活動を続けるためにどのようなことを意識しているのでしょう?……

ロアッソ・リザレクション――もっと赤くなれ

Profile

竹内 達也

元地方紙のゲキサカ記者。大分県豊後高田市出身。主に日本代表、Jリーグ、育成年代の大会を取材しています。関心分野はVARを中心とした競技規則と日向坂46。欧州サッカーではFulham FC推し。かつて書いていた仏教アイドルについての記事を超えられるようなインパクトのある成果を出すべく精進いたします。『2050年W杯 日本代表優勝プラン』編集。Twitter:@thetheteatea