注目クラブの「チーム戦術×CB」活用術
欧州のトップクラブはセンターバックをどのようにチーム戦術の中に組み込んでいるのか。そしてCBはどんな要求に応え、周囲の選手と連係し、どんな個性を発揮しているのか。2019-20シーズンの興味深い事例を分析し、このポジションの最新スタイルに迫る。
#5_ユベントス
「イタリアのサッカーは変わってきて、どのチームも攻撃を重視するようになった。僕たちもそうだ。アヤックスの頃よりもDFラインは高いからね」
CLレバークーゼン戦後、マタイス・デ・リフトはオランダの報道陣にそう明かした。攻撃的なサッカーを志向するマウリツィオ・サッリ監督の就任で、ユベントスの守備のやり方は相当に変わった。このアバンギャルドな変化は当然、守備の主軸であるCBのプレーにも今までとは別のタスクを要求するのだ。
前任のマッシミリアーノ・アレグリ監督の場合は、ボールも人の位置も両方を見て、ゴール前の危険なエリアを埋めることがCBの役割の中心だった。コンビの役割も比較的分かれていた。対人の当たりはジョルジョ・キエッリーニが担当し、パス出しに長けたレオナルド・ボヌッチは後方から組み立てのオーガナイズを行う。一方で守備を固める必要が出てきた際には、CBを1枚追加して守備固めを図ることも辞さない。自陣にしっかりと引いて防塁を築き、エリア内では人を捕まえて離さず、その隙間に流れてくるボールを集中してかき出す。守備の集中力に長けるユーベというチームキャラクターの根幹をなすのがCBだったわけだ。
しかしサッリは、根本からやり方を変えた。人ではなくボールの位置に従ってポジションを取らせ、高いラインディフェンス成立のため正確なポジショニングをまず要求するのだ。相手がスペースに飛び出そうとした時や、前線の味方がプレスをかけコースを限定した時には、ラインブレイクをして先に捕まえることを心がける。当然CBの2人にはビルドアップへの参加も求める。
つまり総合能力が高くモダンサッカーに慣れたデ・リフトが、キエッリーニの故障離脱によって出番が回ってきたのは、CBの役割転換を図る上では悪くないことだったのかもしれない。初先発した第2節のナポリ戦こそミスから失点に絡んでしまったが、あの時は本人いわく「ポジショニングなど、まだまだ学ぶべきことが多かった」状態だった。その後彼は言葉通りにきっちりと学習を図り、CLのGS第2節レバークーゼン戦ではほぼノーミスでクリーンシートに貢献した。
サッリ監督は「3バックの導入はしない」と言い切っている。基本的はボヌッチとデ・リフト、そしてキエッリーニが故障から復帰したらそこに加わるという形で、シーズンを回していくことになるのだろう。もっとも、ファンの間にはプレシーズンで好調を示した屈強なメリフ・デミラルへの期待も高く、「彼を加えた3バックを見たい」という声も多い。昨季までのユーベならそんな姿も見られたかもしれないし、そのファン感情もわかるのだが、まずは「変化」の行方を見守りたい。
Photos: Getty Images
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Profile
神尾 光臣
1973年福岡県生まれ。2003年からイタリアはジェノバでカルチョの取材を始めたが、2011年、長友のインテル電撃移籍をきっかけに突如“上京”を決意。現在はミラノ近郊のサロンノに在住し、シチリアの海と太陽を時々懐かしみつつ、取材・執筆に勤しむ。