日本遠征で7月19日(金)に川崎フロンターレと、23日(火)にバルセロナと対戦するチェルシー。見どころの一つとなるのが、新たに就任したレジェンド、フランク・ランパード率いるチームがどんなスタイルを志向するのか。昨シーズン指揮したダービーでの采配も踏まえて、新チームの戦術を見極めるうえでの注目点を探る。
スタンフォードブリッジの拍手喝采を一身に集めたクラブの伝説が、ブルーズに戻って来る――「スーパー・フランク」チャントをピッチに響かせたMFは、常に状況を把握する視野の広さに優れ、状況に応じてエリア内に侵入。現代的なボックス・トゥ・ボックスタイプのMFとして一時代を築いた。指導の道に進んだ男は、選手としての武器でもあった聡明さを遺憾なく発揮。ダービー・カウンティの指揮官就任から1年、チェルシーへの凱旋を果たすことになった。
「若く、野心的なチームを構築したい」とダービー就任時に語った「チーム・ランパード」からは40歳のジョディ・モリス、43歳のクリス・ジョーンズが指揮官とともに到来。彼らは柔軟なポジションチェンジを多用するスタイルを好み、攻撃的な姿勢を貫くチームをダービーで作り上げた。基本システム[4-3-3]のセントラルMFは指揮官の選手時代を想起させるように広範囲を動き回り、特に左のセントラルMFは頻繁に左ウイングとポジションを入れ替えていた。そのダービーではチェルシーからのローン組が躍動。「新たなるフランク・ランパード」の異名で知られるメイソン・マウント(20歳)は高速クロスと前線への飛び出しで9ゴール4アシストを記録した。
カンテかジョルジーニョか、それとも「&」か
チェルシーでも[4-3-3]を踏襲するとして、このポジションで使われそうなのはロス・バークリーやマテオ・コバチッチ、あるいは負傷離脱中だがルベン・ロスタフ・チーク。似たプレーエリアを好む選手が多く、激しい争いが期待される。2枚のアタッカーは、ウイングというよりもシャドー的なプレーを求められる傾向にある。中盤に下がってスペースを生み出すことが必要になるので、ウィリアン(日本遠征は不在)は適役になるだろう。新加入のクリスティアン・プリシッチもコンビネーションプレーを得意としており、出番は増えてきそうだ。ダービーでは、中盤の底には肉弾戦に対応可能なブラッドリー・ジョンソンが重用された。
攻撃的なチーム構成を目指す中でも、中盤の底はやはりフランス代表のエンゴロ・カンテが一歩リードだろうか。キラーパスを供給できるジョルジーニョは1列前での起用になる可能性もある。ダービーではリバプールから期限付き移籍していたハリー・ウィルソンが右セントラルMFで躍動していたように、2人のボックス・トゥ・ボックスタイプを並べるパターンもある。サッリが去った今、ジョルジーニョの起用方法は興味深いポイントだ。
元レスターのデイビッド・ニュージェントが起用されていた前線には、中盤でボールを刈り取るような徹底的なプレッシングを求めていた。そうした傾向を考えれば、チェルシーでも献身的な守備貢献が求められる可能性が高い。ペドロのCF起用も視野に入っているかもしれない。また、虎視眈々と出番を待っているタミー・アブラハムもいる。ポストプレーでは他を寄せつけない精度を誇るオリビエ・ジルーがメインの選択肢になるが、それ以外のオプションにも注目だ。
その他には、中距離からのシュートが多かったのもランパード率いるダービーの特徴だった。ハリー・ウィルソンは積極的にシュートを狙い、難しい局面でもゴールを脅かした。現有戦力の中でミドルシュートに期待が持てそうなのはバークリーだろうか。2015-16シーズンには8ゴールを記録したMFは、カウンター局面でも迷いなく振り抜くようなシュートを武器にしていた。ランパードの指導で彼の本領が発揮されれば、重要なカードになる。
ラインを高く保つスタイルを好んでいることを考えると、CBはリュディガーとダビド・ルイスの組み合わせが濃厚だ。縦パスを得意とする2枚を並べ、積極的にビルドアップからドリブルで持ち上がるようなプレーを好むとすれば、昨シーズンと同様だ。不安要素としては、クロスやセットプレーからの失点が少なくなかったこと。守備組織の整備がうまくいかなければ、堅守のチェルシーというイメージにはならないかもしれない。
切り札となるレジェンドの就任で、簡単に後戻りはできない。ある意味で“背水の陣”となる今季のチェルシーの、重要な準備が「日本」でスタートする。
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Profile
結城 康平
1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。