雷様か!?マイティー・ソーか!?いや、齊藤未月だ!世界を圧倒するフィジカルコンタクト
雷鳴なく稲妻がボールホルダーを直撃する。稲妻に打たれた選手はその場で倒れてボールを失う。その場に立っているのは、雷神様でもマイティー・ソーでもなく齊藤未月である。
ピッチサイドでカメラを構えていると齊藤が凄まじいスピードで何度もファインダーに飛び込んでくる。相手ボールへのプレッシャーだけでなく、ボールを持っている味方をものすごい勢いで追い越していく。あえて齊藤を狙って撮っているわけでもないのだが、ボールを追って写真を撮っていると自然と齊藤の写真が増えてしまう。ピッチのどこにでも現れるその縦横無尽の働きぶりにファインダーを外して肉眼でピッチ上の齊藤の数を数えたくなるほどだ。
U-20日本代表は2大会連続でのU-20ワールドカップのグループリーグ突破を決めた。日本は、イタリア、メキシコ、エクアドルと同組のグループB。日本戦の前日の記者会見でエクアドル代表のホルヘ・セリコ監督が「死のグループ」と評するほど、他のグループと比してもグループBはレベルが高かった。
日本は列強相手に1勝2分勝ち点5の2位で見事に通過を決めた。グループリーグでの失点はわずかに1。その強固な守備の中心にいたのが齊藤だった。日本の“防衛大臣”と呼んでも差し支えないだろう。
世界でも圧倒するフィジカルコンタクト
かつての日本代表はA代表も世代別代表も、世界大会になると「フィジカルコンタクトで劣っている」というレッテルを貼られてきた。しかし身長166センチ66キロの小兵は、世界の舞台で次々と相手選手をなぎ倒していく。ファールを取られてしまうこともあるが、ケロっとした顔で「この程度のフィジカルコンタクトでファールかよ?」とでもいいたげな表情を見せる。相手からぶつかってきても倒れているのは相手ということもある。
日本代表が世界の大会でフィジカルコンタクトを苦手とする理由の一つにJリーグでのフィジカルコンタクトの“回数”の少なさがある。よくフィジカルコンタクトの強度の問題と捉えられることがあるが、私は“回数”の差にこそ問題があると見ている。Jリーグではフィジカルコンタクトの回数が少ないがため選手たちに慣れがない。むしろ、フィジカルコンタクトが多い選手を「あいつめんどくせー」と評するような文化もある。体をぶつけられた時に「嫌だな」と思う気持ちがフィジカルコンタクトで負けてしまう要因ではなだいだろうか。でもサッカーはフィジカルコンタクトが許されたスポーツ競技である。本来は嫌だの面倒くさいもないはずなのだ。
しかし齊藤の場合はそんなJリーグにおいても、フィジカルコンタクトを好んでいるようなところがある。むしろ、嬉々として体と体をぶつけあっているようにも見える。だからこそ世界大会に出たときにフィジカルコンタクトの回数が増えても戸惑いがないのだろう。身長の小さい齊藤が身長も体重も大幅に上回っている相手にどれだけ通用するかというのは個人的な注目ポイントだった。特にイタリア代表とエクアドル代表は今大会では長身かつ屈強な選手揃いという前評判だった。
蓋をあけてみれば通用したというレベルではなく、世界でも圧倒できるレベルにあった。ピッチレベルで見ていて次から次にボールを刈り取る姿にワクワクした。齊藤のように身長が低くてもフィジカルで世界で圧倒できるという見本は、日本の身長の低い選手を大いに勇気づけるだろう。
見つめ直した自分の武器
齊藤未月は今シーズンのJリーグ開幕戦から際立った活躍を見せていた。20歳にして湘南ベルマーレで今やなくてはならない大黒柱となっている。昨年から大きく成長したことを感じさせるプレーに、ある試合の記者会見で私は湘南の曺貴裁監督に齊藤の成長について質問したことがある。すると意外な答えが返ってきた。
「(シーズン前の)キャンプのときにダメで部屋に呼んだことがある。何がダメかというと自分が得意じゃないことを得意にしようとして、ぎくしゃくしていた。若い選手は自分のいいところを常に出していくこと。そのハードルが高くても常に磨いていかないと。まだやってないことや苦手なことに取り組むばかりではいいところも消えていく。良いところを “常に”出せるようになったことが成長だと思う。彼の周りにボールが来て常に彼が奪う。そういうプレーが全く見られない試合にしてしまうと選手というのは色がなくなるし、自信がなくなる」
曺監督の言葉でシーズン前に自分の最大の武器を改めて見つめ直したことは大きかった。自分の武器を見つめ直したことで、世界でも通じるボールを奪うプレーに成長していった。
齊藤未月を見ているだけで楽しめる
今回のU-20日本代表では齊藤未月がキャプテンに選ばれた。ボランチというポジションで物理的にピッチの中央に君臨しているだけでなく、精神的にもチームの中心となっている。また、齊藤は幼稚園、小学校とインターナショナルスクールに通っていたため英語も堪能である。試合前のコイントスで流暢な英語を使ったコミュニケーションも注目してほしい。試合中は鋭い目つきでボールに襲いかかるが、試合前は柔和でまだ少年らしさを残したあどけない表情を見せる。ここまでの3試合全てでコイントスに勝利しており、すべてボールを選んでいる。コインのつきはいつまで続くのか、そんなどうでもいいところにも私は注目している。一番注目して見てほしいのは世界相手にでも圧倒するフィジカルコンタクトだが、グループリーグでは強烈なシュートで惜しくもゴールならずというシーンが2度あった。実はそろそろゴールを決めてくれるのではないかと期待している。
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原点がココにある
5/23(木)開幕
FIFA U-20 ワールドカップ ポーランド 2019
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スマホ・PC・タブレットでも視聴可能!
放送予定
ラウンド16 6/2(日)-4(火)
準々決勝 6/7(金)-8(土)
準決勝 6/11(火)
3位決定戦 6/14(金)27:15~
決勝 6/15(土)24:30~
FIFA 女子 ワールドカップ フランス 2019
J SPORTS にて日本戦全戦含め、開催全52試合放送
Photo: MC Tatsu
Profile
池田 タツ
1980年、ニューヨーク生まれ。株式会社スクワッド、株式会社フロムワンを経て2016年に独立する。スポーツの文字コンテンツの編集、ライティング、生放送番組のプロデュース、制作、司会もする。湘南ベルマーレの水谷尚人社長との共著に『たのしめてるか。2016フロントの戦い』がある。