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リバプールの強化ポリシー支えるFSG、新設SD、クロップの三位一体

2019.04.09

今が攻め時! データ“+主観”の大補強

英国メディアによれば2017-18の利益は史上初の1億ポンド超! 売上高もアーセナル、チェルシーを追い抜いた。MLBのレッドソックスで成功した手法を基にフロントを刷新、役割を細分化し、移籍市場でも巧みに立ち回るリバプールの強化ポリシーとは?

 アメリカの投資企業である「フェンウェイ・スポーツ・グループ(FSG)」が2010年秋にリバプールを買収してから8年半が経った。FSGは悪名高かった前オーナーがこさえた2億ポンドの借金を返済し、文字通りクラブを再生したわけだが、一方でチームの強化に関しては紆余曲折あった。買収当初にFSGが試みたのは、統計学的の見地から選手を客観分析するセイバーメトリクスを用い、低予算でも勝てるチームを作る『マネーボール』理論の導入だった。ところがその信奉者としてディレクターに据えたダミアン・コモリは結果を出せず更迭され、その後もデータアナリストとスカウトで組織した「移籍委員会」とブレンダン・ロジャーズ前監督が衝突するなどして機能せず、獲得選手にはルイス・スアレスやコウチーニョ、フィルミーノのような大当たりもいればキャロルやバロテッリ、ベンテケといった大外れもいて“打率”が上がらぬ時間が長かった。

 潮目が変わったのはユルゲン・クロップが来た2015年頃からだ。彼の招へいと時期を同じくしてFSGは『マネーボール』的発想から「データはあくまでも意思決定の補助的要素」という方針にシフトし、同時に「いかにコスパ良く補強して勝つか」ではなく「コストをかけてでも勝つ可能性を高める」というスタンスを取るようになった。その理由はいくつかあって、FSGの看板企業たるMLBレッドソックスの方針転換に合わせたこと、リバプールの財政が選手の賃金見直しと売却、スタジアム増築による収入増、スポンサーの新規獲得によって安定したこと、そしてドルトムントでもミヒャエル・ツォルクSD(スポーツディレクター)といい関係を築いていたクロップという、交渉事や分析は専門家にいい意味で“丸投げ”できる「餅は餅屋」タイプの指揮官の存在などが挙げられる。

終了間際に劇的な展開で勝ち点3を手にしたプレミア第32節トッテナム戦後、渾身の“右ストレート”で喜びを爆発させるクロップ

最重要ターゲットは言い値を呑んででも

 そうしてクラブの野心と予算は引き上げられ、ロジャーズ時代は嘲笑の的だったリバプールの「移籍委員会」はクロップの下で誰もが羨む鉄の組織となった。現在はオーナーのFSG、2016年に新設されたSDのポストに就いたマイケル・エドワーズを中心とした移籍委員会、そしてクロップ監督の三位一体が機能している。彼らの間には、①監督は自身が望まない選手とのサインを決して強制されない、②オーナーは獲得候補が価格や年齢の面でポリシーと矛盾する場合はノーと言う権利がある、③エドワーズSDは常に移籍市場の流れを読み、選手の売り買いはトレンドに沿ったものであること、という3原則があり、三者がそれぞれの仕事をリスペクトし、立場を尊重し、各々の役割を果たすことで歯車が噛み合った。

マイケル・エドワーズSD就任を伝えるツイート

 これにより指揮官の主観とデータによる客観とがうまくミックスされるようになり、チームは各ウインドウの8~12カ月前から若く、伸びしろがあり、ゲーゲンプレスの哲学にフィットした人材を特定できるようになると、自然と補強のハズレがなくなった。またクロップが絶対に必要だと判断した「プライム・ターゲット」の選手に対しては、フロントが交渉相手の言い値を呑んででも確実に取りに行くことが徹底され、それがサウサンプトンと揉めに揉めても獲得を諦めなかったファン・ダイク、RBライプツィヒから1年待っての加入となったナビ・ケイタ、GKとしては破格の額をローマに支払ったアリソンらの獲得に繋がった。さらにサラーはブラント(レバークーゼン)、マネはゲッツェ(ドルトムント)やレロイ・サネ(マンチェスター・シティ)、ロバートソンはセセニョン(フルアム)の代替案だったが、彼らの大当たりはアナリスト出身のエドワーズSD率いる分析・スカウティング部隊のお手柄で、クロップが移籍委員会のリストアップを信じてゴーサインを出したからこそ実った補強だと言える。

 かくして現在は大躍進を見せるリバプールだが、重要なのは、クロップは最も重要な意思決定権を持っているが、大型補強は彼ではなくFSGの意向だということ。極端な話、FSGが「倹約」を打ち出せばクロップはその範囲内でやりくりするはずで、彼は往年のファーガソンやベンゲルのような全権監督ではない。これまでの健全経営で資金も集まり、FSGが今こそ「攻め時」だと判断したから、今季の優勝を狙えるチームがあるのだ。

プレミア第33節サウサンプトン戦、サラーの逆転ゴールを祝福する選手たち。マンチェスター・シティとの激しい首位争いが続くリーグ戦、9日にポルトとの準々決勝第1レグを控えるCLで悲願のタイトル獲得なるか

Photos: Getty Images

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プレミアリーグリバプール経営

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大谷 駿

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