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ロンドンに生まれ、育成に定評のあるサウサンプトンユースで育ったルーク・ショーは世代有数のSBとして、その名を英国に轟かせた。弱冠15歳でU-18チームのレギュラーとなったSBは急成長を遂げ、サウサンプトン史上最年少で「スターティングメンバーとして、プレミアリーグに出場する」という偉業を成し遂げる。
10代の頃から「バランス感覚」は大きな武器で、相手に競り負けない体幹の強さを活かした競り合いと運動量でサイドを制圧。プレミアリーグらしい、肉弾戦を恐れないSBは2014年にマンチェスター・ユナイテッドに加入する。しかし、赤い悪魔に加入してからの彼はケガにも苦しめられ、ジョゼ・モウリーニョには練習態度やプレー判断について厳しく叱責された。しかし、ポルトガル人監督の指導に不貞腐れることなく鍛錬を続けた男は、飛躍の時を迎える。モウリーニョも彼の進化を評価し、「フィジカル面に加え、戦術的にも大きく成長したフットボールプレーヤー」と絶賛することになった。
攻撃面での柔軟性が支える「インサイドレーン」でのプレー
守備面で飛躍的にミスを減らしたことに加え、攻撃時の柔軟性を増した彼は、新たな指揮官オーレ・グンナー・スールシャールのチームにおいて「中核」となっている。2018年に契約延長した23歳は、苦境から這い上がることによって、若くして冷静なプレー判断を身に付けた。
アントニー・マルシャルがサイドライン際を主戦場にしており、ポール・ポグバがハーフスペースを好むため、ショーは内側寄りのポジションからゲームを構築する。マーカス・ラッシュフォードやジェシー・リンガードも積極的に相手SBの裏に走り込むので、外に人数が集まりやすい。そこにボールを供給しながら、ポグバへの縦パスを狙いやすい位置は、ライン際ではなく「内側のレーン」だ。
アシュリー・ヤングが逆サイドで高い位置を保っていることもあり、マンチェスター・ユナイテッドは「3バック的」にビルドアップ。彼が3バックにおける左CBに近いポジションに適応していることで、両CBにとっては「逃げ場」としての役割を果たしている。特にスウェーデン代表のビクトル・リンデレフはボールを前に運ぶようなプレーを得意としないので、ショーのサポートは重要だ。実際、スールシャール監督になってから、彼のボールタッチ数は増加傾向にある。
カイル・ウォーカーを彷彿とさせる「二役」
CBのようにプレーしながら、チーム全体のビルドアップが成立すれば「サイドの高い位置へと進出する」ことが可能な機動力も、ショーの特異性だ。CBのようにプレーするが、本職は攻撃的なSBだからこそ、2つの役割を両立する。偽SB的に走り込むようなパターンも使いこなしており、プレーの幅は別格。高い位置に進出しながら、機動力とフィジカルでカウンターの芽も摘み取る。オールラウンダーとしてチームを牽引する彼の存在は、チームに戦術的な柔軟性を与えている。
ポグバやマルシャルによって広がったスペースに走り込んで「使われること」も可能で、ビルドアップの起点としてチームメイトを「使うこと」もできる。現代的なSBに求められる能力を高レベルで兼ね備える若者は、果てしない可能性を秘めている。
さらに、足先で弾くようなパスを習得したことで、狭いエリアでもボールを逃がすことが可能となった。キープ力に加えて、簡単にプレスを外すプレーを併用することで、ショーはボールを非常に奪われにくい「プレス耐性」のあるSBへと変ぼうした。
マルセロを彷彿とさせるようなアウトサイドキックを使い、ボーンマス戦では得点の起点になった。寄ってきたポグバを囮に、タイミングの読み辛いアウトサイドで「遠く」に飛ばしたパスには「視野の広さ」と「駆け引きのセンス」が凝縮されていた。
「万能さ」という視点から考えれば、今のショーは「世界のトップレベル」にも比肩する選手に近付いている。上下動とスピード、闘争心を武器にした若き日のプレースタイルではなく、成熟したSBはマンチェスター・ユナイテッドにおいても圧倒的な存在感を放っている。マンチェスター・シティのバンジャマン・メンディ(24歳)や、レスターのベン・チルウェル(22歳)とともに、次世代を担うSBは順調な成長曲線を描いている。
Photos: Getty Images
Profile
結城 康平
1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。