無理をするな、Jクラブのツイッター運用はダサくていい
フットボールを愛するみなさんこんばんは、ジェイ(@RMJ_muga)と申します。
タイトルがちょっとアレな感じですが、別にダサいと決めつけている訳でも開き直っている訳でもありませんのであの! 石を、石を投げないでください!
「日本の事情的に、カッコよさばかりを追求するのはしんどいよね!」ということを少しばかりお話させていただければという次第でございますので。
実はものすごく狭い、スポーツとサッカーの市場
さて、基本的には気の向くままエモーショナル?に書かせていただくわけですが、最初にちょっとだけ数字を挙げておきますね。
こちらの統計によると「スポーツ参加市場規模」は約2.5兆円で、サッカー日本代表とJリーグのファンも増えているとのこと。喜ばしい数字です。
しかし一方でこちらの資料を見てみますと……。
日本の余暇市場全体はなんと約70兆円。それぞれ別の統計ではありますが、単純に比較してみるとスポーツが占める割合はわずかに約3.5%です。そこからサッカー観戦のみの数字となると、本当に微々たる割合になるでしょう。
日本にはライバル娯楽が多すぎる
そんなわけで、マーケティング的な観点から見るとサッカークラブのライバルは優勝や昇格残留を争う他クラブとはなりません。もちろん隣町のにくいあんちきしょう、ダービーマッチの対戦相手なんかはライバルに違いありませんが、その前に戦うべき相手がいます。それが「時間消費」です。
世界でも稀に見るエンターテインメント大国・日本では、他スポーツと同時に数多の時間消費活動(各種テーマパークやカラオケ、アイドルの追っかけ、餅撒き、ガンプラ作成、Tiktokの動画作成などなど)が立ちはだかってきます。
サッカークラブは競争に勝ち抜くため、それら――2時間1800円の映画や、月額1800円のNetflix謎ドラマ――を上回る価値を創出して示し続けなければなりません。
そして伝統的に、スポーツをビジネスとして扱い辛い土地柄…。そもそもサッカーを選んでもらい、お金を使ってもらうことへのハードルが恐ろしく高い。例えリーグ内ではどれだけビッグクラブであろうと、恰好をつけている余裕はないのです。
川崎Fダミアンはバーミヤンの桃からギャグ登場「ネイマールと一緒でも、フロンターレでも…」 https://t.co/y7nl1BRwGO #gekisaka #jleague pic.twitter.com/TnMC5SyEkt
— ゲキサカ (@gekisaka) 2019年1月27日
※3億6千万の男。
「サッカーはマイノリティである」ことを自覚しよう
さらに、私たちが思っている以上に「サッカー」とそれに類するものは知られていません。サッカーをよく知らない層との間に横たわる溝は、既存ファンが想像する以上に深いものがあります。
適切かどうかわかりませんが身近な例を挙げますと、過去にレノファ山口のホームゲームにて「選手紹介の際に歓声と拍手が起きた対戦相手の選手」が3人いました。それが岩政大樹さん(元日本代表/山口県周防大島町出身)、三浦知良選手(ご存じキング)、小野伸二選手(元日本代表)です。
他にも元日本代表選手や有名選手が多数来山しましたが、拍手が起こったのは後にも先にも(レノファゆかりの選手を除いて)この3人だけです。さすがに田中マルクス闘莉王選手クラスには拍手が出るかなと思ったのですが、ありませんでした。V・ファーレン長崎の高杉亮太選手も山口県出身なのですが、岩政さんとの知名度の差によるものか2年連続で拍手はわずかでした。頑張れ山口県民。
このように、スタジアムに来場している人たちですら興味関心と知識には大きなバラつきがあるわけで、ましてや来ていない層となると一体全体です。長い歴史の末、当然のようにサッカーが根付きまくっている欧州とはそもそもの出発点が違います。
特にJリーグの新興クラブでは、「サッカーはよくわからないんだけど、地元チームや選手が好きなので応援しています!」という新規・常連層が多数を占めているのではないでしょうか。こういった環境でサッカーそのものの価値ばかりをアピールしても、なかなか効果を上げることは難しいでしょう。
「サッカーは世界中で愛されていて最も人気のあるスポーツ」という思考は、いったん取っ払ってしまう必要があるのではないかと思うのです。アビスパの選手が束になっても田村ゆかりさんのフォロワー数には遠く及ばないし、日本人サッカー選手で杉田智和さんを上回っているのは唯一、世界のシンジカガワ選手だけなのですから。
「カッコよくない発信」を否定すべきではない
ただまあ、できることならそりゃあCOOLにキメたい。
【たとえば欧州であれば……】
Two days to go… ?? pic.twitter.com/LSXknEAd73
— Chelsea FC (@ChelseaFC) 2019年1月17日
※本文は「あと2日…」という一言に、赤丸と青丸の両クラブカラーを添えただけ。添付画像のデザインもいたってシンプル。
こんなカッコいいツイート告知ができるわけですね。
しかしながらこれが成立するのは、対戦する両者がビッグクラブであること、その2クラブのダービーマッチであることや、両者のクラブカラー、エデン・アザールというスーパースターなどの「周知」があってこそです。
Jクラブの試合でこういったクールテイスト告知をしても、大多数の人にとっては「何のことかよくわからん」で終わってしまう可能性が高いのではないでしょうか。
この画像がまたtwitterで拡散されてるけど、このタイミングでこの画像の漫画「凪のお暇」を期間限定無料にしてるamazonさん、やり方が上手い。 https://t.co/qPnqx3hYB0 4/7まで読めるぞ。 pic.twitter.com/oZ9IxXUvCc
— 中野 (@pisiinu) 2018年3月28日
必然的に「まずはとにかく知ってもらいたい 」「楽しい雰囲気を発信して興味を引きたい」というのが切実な施策となるわけです。気取ったブランディングができる立場ではないのですから、スーパーのチラシみたいのでもなんでも、とにかく知らしめる。「何か面白そうなことをやってるぞ」感を前面に押し出していく方向性を間違いとは言い切れないでしょう。
カブを食べてカブ組織を応援。【広報】#frontale pic.twitter.com/e6LwCdkoWI
— 川崎フロンターレ (@frontale_staff) 2018年12月1日
※下部組織のカブ
もちろん、欧州的クールのエッセンスも取り込めるものはどんどん取り込んでいくべきだと思います。特にデザイン面について、「普段使いできるようなグッズ」はまだまだ不足しているのが現状ですから、奈良クラブや東京ヴェルディが追従したような「ユヴェントス的手法」を積極的に模倣していくのは大いにアリでしょう。
《奈良クラブ 「N」ロゴ コンセプト》
— 奈良クラブ (@naraclub_info) 2018年11月27日
奈良の地で約1300年前に造られた平城京。朱雀大路を挟んだ右京と左京、左京の傾斜地にあった外京の地場がロゴの始発点。「N」のロゴが示す上下への動きは、厳しい状況にも負けない不屈の心と、学び前進する奈良の伸び代を表す。#naraclub pic.twitter.com/E0pGeIH0CH
【VERDY TV】本日行なわれたクラブ創立50周年記念事業発表会の様子をお届けします。これからの50年で我々が歩む道を、羽生英之社長がプレゼンテーションしました。その一環として新しいロゴについてもご説明しました。こちらから→https://t.co/PlvVOXHGsF #verdy pic.twitter.com/47WwvjuGYE
— 東京ヴェルディ公式 #緑パートナー募集中 (@TokyoVerdySTAFF) 2019年1月19日
リソース格差を補い個性を出すための「公式外アカウント」
そんなこんなで、Jクラブのアカウント運用は本当に難しい。競技性を追求しても大した人数は振り向いてくれないし、ちょっと奇をてらうとイロモノ扱いされてしまいます。
ところで、この原稿を書いている最中にタイムリーな記事が発信されていたわけですが、
【NEW】エンゲージメント率316%!ASローマのソーシャルメディア戦略に迫る (インタビュー・文 田丸由美子 @yumikotamaru ) https://t.co/u438CVpUU8
— footballista (@footballista_jp) 2019年2月12日
――Twitterアカウントの中で最もエンゲージメント率が高いのは、『バルセロナ』でも『レアル・マドリー』でもなく、『ASローマ英語版 @ASRomaEN』
New delivery for #ASRoma pic.twitter.com/gW6rwnYtxf
— AS Roma English (@ASRomaEN) 2018年7月24日
※な、なんや欧州もおもろいことやっとるやんけ……(ただやはり、何気にクオリティが高い)
記事中では「アカウントに個性を持たせる」戦略が紹介されていますが、これもまた歴史と市場規模に基づくリソースがあってこそ。『デジタル&ソーシャルメディア最高責任者』などという役職はJクラブに存在するのだろうか……?
実際のところは広報担当が1人しかいない、というJクラブは多いと思われます。その限られたスタッフが、練習風景の写真や動画を撮りながらメディア対応をこなしつつ、ファンサービス対応の管理もする。そんな激務の合間に必死のツイートをしているわけです。アカウントに個性を持たせようにもなかなか余裕がないでしょう。余裕がないと、発信量も増やせず内容も無機質になってくる。クラブの個性や顔がどんどん見えなくなってしまいます。
しかし各クラブとも、ただ手をこまねいている訳ではないのです。足りないリソースや知名度を補うべく、新たな取り組みが模索されています。
最近、公式とは別の「クラブ関係者による発信」というものが増えてきていると思いませんか?
代表的な例はやはり、
先程スタジアムから自宅へ戻りました。沢山のおめでとうの言葉にただただ感謝です。Vファーレン長崎がJ1に昇格出来たのは関係各位のこれまでの努力の賜物です。本当にご支援有難うございます。スポーツの力は凄いですね。
— 高田 明 (@A_TAKATA) 2017年11月11日
ジャパネットたかた、髙田社長でしょうか。
髙田社長のツイート数はあまり多くなく、むしろ現場で触れ合って情報収集する主義を取っていますが、外からきた大物アカウントという意味ではJリーグの先駆けかもしれません。さらに、
前にも書いたけどガジェットの進化はコンツンツの進化に相関する。トップチームとフロントの距離感も。チームの全てを露出することは約束できないけど、いかにワクワクしてもらうか、発信してもらえるかがコンテンツのテーマ。
— かーねる?高島祐亮@3/10(日)YSCC横浜 away (@takashima475) 2019年2月12日
#GoProHERO7 あと3台くらいは欲しい。 https://t.co/R32Qkkr26p
かーねるさん(ガイナーレ鳥取)
週末にJリーグが観られる幸せ、スタジアムに行って全力で贔屓のクラブを応援できる幸せは、当たり前には存在しないということは知って欲しい。誰かが諦めたら簡単に消えてなくなってしまうことだってあるのですよ…。
— えとみほ@次回HGは3/10(日)vs 横浜FC戦 (@etomiho) 2019年2月6日
えとみほさん(栃木SC)
#みんマガ 記念すべきVol.10です!
— 中島啓太 | なかじー (@keitanakajiman) 2019年2月6日
まだ読んだことない方もぜひこの機会に。
▶カマタマーレ讃岐と練習試合を
▶宮崎キャンプに出発
▶カラオケ企画の景品が続々と
▶金井選手がオフィススタッフに
▶大航海スタンプの特典発表
▶サイボウズのシンポジウムに岡田オーナーがhttps://t.co/evngsFPW9N
中島啓太さん(FC今治)
中川政七社長(奈良クラブ)
などなど、近年は異業種からJクラブに就任する、という流れが加速しつつあります。この方々に共通するのは優秀な経営者やビジネスパーソンであると同時に、サッカー界外のフォロワーを多く抱えているという点。
みなさん多忙を極めてはいらっしゃるのですが、影響力と発信力のある方がサッカーを語ってくれることにより、単純に新たな注目が集まります。そして興味を持ってくれた経営者やクリエイターなどがさらに集まり、新しいものが生まれてくるかもしれません。クラブの「視覚化」にも繋がってくるでしょう。
また一方で、サッカーという競技そのものについての発信も強化されていく流れができつつあります。
フットボリスタではすっかりおなじみの牛ど……奈良クラブGMの林舞輝氏。フォロワー2万人超え(しかし95%以上が男性)の彼を始めとして「指導者自身が発信する」ということがスタンダードになりつつあります。公式アカウントで語るのが難しいサッカーそのものについては、指導者アカウントがその役割を担っていくようになるのではないでしょうか。
ポジショナルプレーについての見事な記事を書いた彼や、
帰国中フットボリスタ・ラボの皆様に話をさせて頂いた内容が記事になりました。今まで話していないようなことも色々話しています。もしよろしければぜひ。
— 河内一馬 / Kazuma Kawauchi (@ka_zumakawauchi) 2019年3月5日
異色の新世代サッカーコーチ、河内一馬「監督のブランディング」|footballista @footballista_jp|note(ノート) https://t.co/RAiFdVoRFq
「芸術としてのサッカー論」を提唱する彼や、
この度 河内一馬氏@ka_zumakawauchi とコラボする形で「科学としてのサッカー論」の記事を担当する事になりました。まずは、「はじめに」をご一読ください。面白いコンテンツを提供していきたいと思います。拡散宜しくお願い致します。https://t.co/DJOtQprZGu
— 平野 将弘 (@manabufooty) 2018年10月15日
「科学としてのサッカー論」を語る彼などの新世代コーチが、将来Jクラブで活躍する際にどのような発信を行ってくれるのか非常に楽しみですね。
休日の娯楽に、サッカーを選んでもらうために
ちょっと話がそれた気がしなくもなくもないですが、そろそろまとめに入りましょう。
ここまでの話を整理しますと……
◇日本には娯楽のライバルが多すぎる
◇サッカーもまだまだ根付いていない
◇海外ビッグクラブと同じスタイル・規模はどうやってもできない
◇ただ参考にしたり、エッセンスを取り入れることはできる
◇現状は苦しいが、絶望的でもない。新たな取り組みにも期待できる
そしてタイトルの話に戻るわけですが、ダサくていいというよりも、カッコいい/クール的なものが本当にパイを増やしてくれるのか?最大公約数を取れるのか?という疑問が私の中にあるわけです。
もちろん本当にダサダサなものはいかんと思うのですが、クールゆえに受け付けられない、ということも世の中にはあると思うんですよね。世の中ちょっと隙がある、ちょいダサくらいの方が良いのでは。
極端な例ですが、例えば村上春樹氏の小説を読んでそのキャラクターに感情移入できるか?というと、私は無理です。「ちょっとチーズでもつまもうと恵比寿のバーに行った」とか言われても世界が違いすぎて全然カッコいいと思えない。それに新山口駅から恵比寿まで、新幹線と山手線を乗り継いで4時間41分もかかります。おシャレなシャツはちょっと着こなせない、ベタベタな法被を着て応援するほうが良い、という人もいるわけです。
さらに古い話になりますが、その昔、ハードボイルド探偵ドラマをつくろう!となった際に、あの松田優作にして「ハンフリー・ボガードのようなハードボイルドは日本ではカッコいいと受け入れられないのでは……? しかし自分がカッコいいと思う男、エリオット・グールドでは華が足りなさすぎる……」と悩んだ末に『探偵物語』の工藤ちゃん、ハートボイルドに行きついたわけです。歴史と、そもそもの土壌の違い。カッコよくキメなくてもいい、冗談でも本気で演じれば本物になる。
ということで、JクラブのSNS運用については無理にカッコよさを追求せずに
①(一見)ダサくても良い
②ただし粋であること=美意識と個性があること
③そして「優しさ」があること
この要件を満たしてハートボイルド路線でいくべし!ということでどうでしょう。。。(投げっぱなしで終わる)
先日、毎年恒例の「あの撮影」を行いました。山村選手はもちろん初バナナ。見事なスマイルで「かわさき応援バナナ」をPRしてくれましたよ!かわさき応援バナナは川崎市内で販売中です!それでは改めて。ヤマ!ようこそフロンターレへ!【プロモ】#frontale pic.twitter.com/eIz0jonIpr
— 川崎フロンターレ (@frontale_staff) 2019年1月31日
※強くなければ生きていけない、優しくなければ生きていく資格がない
Photo: Takahiro Fujii
Edit:Daisuke Sawayama
Profile
ジェイ
1980年生まれ、山口県出身。2019年10月よりアイキャンフライしてフリーランスという名の無職となるが、気が付けばサッカー新聞『エル・ゴラッソ』浦和担当に。footballistaには2018年6月より不定期寄稿。心のクラブはレノファ山口、リーズ・ユナイテッド、アイルランド代表。