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パコ・アルカセルは、最強の切り札。先発2試合で得点ランク首位に

2018.11.09


 ドルトムントのスポーツディレクター、ミヒャエル・ツォルクは点取り屋の目利きに長ける。厳密にはスカウティングチームが発掘し、篩(ふるい)にかけた新戦力候補の最終選別が抜群にうまい。そうでなければ、ロベルト・レバンドフスキやピエール・エメリク・オーバメヤン、ミヒー・バチュアイら“当たりくじ”を引けたはずがない。01-02シーズンのリーグ制覇に貢献したマルシオ・アモローゾ、公式戦83試合で37得点を挙げたアレクサンダー・フライ、同102試合・49得点のルーカス・バリオス獲得に携わったのもツォルクだ。

 そのツォルクの眼鏡に適い、ドルトムントにすぐさまフィットした最新のストライカーがパコ・アルカセルだ。バルセロナでルイス・スアレスのバックアッパーに甘んじていたスペイン代表FWは、今夏の移籍マーケットが閉じる3日前に加入すると、新天地デビューとなった第3節のフランクフルト戦でいきなりゴールを挙げる。その後の活躍は文字通り圧巻だ。第6節レバークーゼン戦で2ゴール、続く第7節アウグスブルク戦ではハットトリックを決めたのだ。しかも、いずれも途中出場時に記録したのだから驚異でしかない。

 ブンデスリーガで初めて先発出場した第8節のシュツットガルト戦でも1ゴールを奪ったアルカセルは、ここまで29分に1ゴールという信じがたいペースでネットを揺らしている。途中出場から6ゴールは今シーズンのブンデスで断トツのトップ。いや、4大リーグに範囲を広げても、アルカセルより優秀な“ジョーカー”は一人も見当たらない。ちなみに、プレミアリーグはアーセナルのオーバメヤン(4ゴール)、リーガではともにセルタのマキシ・ゴメスとソフィアン・ブファル(2ゴール)、セリエAはナポリのドリース・メルテンスとユベントスのフェデリコ・ベルナルデスキ(2ゴール)が最多である。

開幕後の加入で途中出場が中心だったにもかかわらず、第10節時点でブンデスの得点ランク首位タイにつけるアルカセル


“後半型”のチームにマッチ

 アルカセルが量産態勢に入れたのは言うまでもなく、高度なシュート技術があればこそ。同僚のGKロマン・ビュルキは『キッカー』誌に「爪先に限りなく近い部分でボールをミートしている。だから、横回転じゃなくて縦にスピンするんだ」と独特のシュートセンスを称賛する。ただ、どれだけシュートが巧くても、ゴールから遠ざかる選手も少なくない。サッカーは多分にメンタルが物を言うスポーツだ。決定機を外し続けることで、徐々に自信を喪失したストライカーが本来の実力を発揮できなくなるケースはままある

 その自信をつける意味で、デビュー戦でネットを揺らせたのは大きかった。しかも、ゴールの難易度は低くなかった。ペナルティエリアぎりぎりの位置から、左足の豪快なミドルをゴール左隅へと突き刺したのだ。このシュートが決まり、各紙から「ドリームデビュー」と称されたことで、アルカセルに精神的な余裕が芽生えたのは間違いない。

 多くのシュートチャンスに恵まれていることも理由として挙げられる。序盤戦のドルトムントは、前半より後半に攻撃のギアを上げる傾向が強かった。時計の針が進むにつれて相手のプレスが緩くなったり、敵陣にスペースが生まれてきたりすると、縦志向の強いチームの攻撃が存分に機能。実際、第5節ニュルンベルク戦(7-0)では後半に5得点、第6節レバークーゼン戦と第7節アウグスブルク戦では後半だけで全4ゴールを叩き出した。その中で主役の座を演じたのが、ジョーカー役を託されたアルカセルだったのだ。

アウグスブルク戦では土壇場の96分に直接FKでゴールネットを揺らし、ハットトリックを達成するとともにチームを劇的勝利へと導いた

 純粋なCFを使わず、1トップに“偽9番”としての役割を求めるルシアン・ファブレ監督の戦術も、流動的な動きで敵を攪乱しようとするアルカセルにはよく合っている印象だ。[4‐2‐3‐1](あるいは[4-3-3])システムの頂点に留まらず、頻繁に2列目の中央部やサイドでボールに絡み、崩しに関与してからゴール前に侵入することで、プレーのリズムに乗ると同時に相手のCBに捕まりづらくなっている。

 その特徴がよく表れたゴールが、レバークーゼン戦での決勝点だった。ペナルティエリアの外(数人の味方より低い位置)でボールを右に展開すると、スルスルとゴール前に入り込み、アクラフ・ハキミのクロスを右足ダイレクトで流し込んだのだ。人数がそろっていたにもかかわらず、レバークーゼンの守備陣は誰一人としてアルカセルのマークにつけず、CBヨナタン・ターは失点直後に責任転嫁するような素振りを見せるだけだった。

 周囲を使うのも、自らが使われるのも巧いマルコ・ロイスとの相性も良く、このトップ下と早くも息の合ったポジションチェンジを見せている。ブンデスとCLでまだ計4回しか先発出場していないにもかかわらず、ジェイドン・サンチョらウインガーとも好連係を築いているアルカセルがゴールを量産していく可能性は十分。今後は相手の警戒がさらに強まるに違いないが、この25歳には直接FKという飛び道具も備わっている。オーバメヤンやバチュアイもさることながら、ドルトムント時代のレバンドフスキにもなかった武器だ。アルカセルは偉大な先駆者たちに肩を並べる、いや、超え得るポテンシャルを存分に見せつけている。

10戦6ゴールのロイスと5戦7ゴールのアルカセル。ドルトムントを牽引する2トップは11月10日に控えるバイエルンとの“デア・クラシカー”でもカギを握る存在だ


Photos: Bongarts/Getty Images

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ドルトムントパコ・アルカセル

Profile

遠藤 孝輔

1984年3月17日、東京都生まれ。2005年より海外サッカー専門誌の編集者を務め、14年ブラジルW杯後からフリーランスとして活動を開始。ドイツを中心に海外サッカー事情に明るく、『footballista』をはじめ『ブンデスリーガ公式サイト』『ワールドサッカーダイジェスト』など各種媒体に寄稿している。過去には『DAZN』や『ニコニコ生放送』のブンデスリーガ配信で解説者も務めた。

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