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山中亮輔、進化を続ける最先端SB。横浜FMのスタイルを象徴する男

2018.10.26

「使い分け」こそ、山中の強み

 元オーストラリア代表監督アンジェ・ポステコグルー率いる横浜F・マリノス(横浜FM)が、多彩なパスワークを中心とした攻撃的なサッカーを展開し話題を集めている。ベースとなるポジショナルプレーは、同じシティ・フットボール・グループのトップクラブであるペップ・グアルディオラ率いるマンチェスター・シティが提示するものだ。

 そのスタイルは、ポステコグルー監督が攻撃スタイルを押し進めたことでさらに進化した。エリク・モンバエルツ前監督が率いていた当時より、ボールポゼッションは飛躍的に上昇。J1の30試合を終えて得点53失点51は、ともにJ1の18チームでもっとも多い数字である。ハイリスク・ハイターンの戦い方には課題があるものの、観る側にとっても非常に興味深いパフォーマンスを披露している。

 その横浜FMでも、多彩な攻撃参加でファンを魅了しているのが左SBの山中亮輔だ。SBでありながら固定的なポジションを取らず、ボランチの付近にまで顔を出して組み立てに絡む。[4-1-2-3]を基調とする横浜FMにおいて、山中はアンカーの両脇に開くスペースにポジションを取り、ワイドに張るウイングの選手よりインサイドに位置することで、そこを起点に攻撃に関わっていく。

 こうしたポジショニングは“偽サイドバック”と呼ばれるが、山中の場合は組み立てに影響を与えることに留まらず、ウイングを内側から追い越すアンダーラップ(インナーラップ)からの強烈なミドルシュート、さらに状況に応じて本来のSBよろしくライン側から切り崩す役割を果たすこともできる。その使い分けこそ、山中の強みになっている。


提示し続ける、多彩な攻撃バリエーション

 山中の注目度を大きく高めたのが、開幕節のセレッソ大阪戦で決めた25m弾だ。

 17分、右サイドの展開からバイタルエリアの中央でフリーになり、右サイドからのワンツーで中に流れた遠藤渓太からのパスを、左足ダイレクトでゴール右隅に決めた。この時、起点になった遠藤と左のファーサイドに入っていたユン・イルロクの距離は50m近く。セレッソ大阪の守備網はこの幅のある攻撃に陣形を広げられ、さらに右サイドでの組み立てが絡んだことで、山中のケアがまったくできていなかった。

第1節セレッソ大阪戦のハイライト

 このゴールにより、山中のインサイドからの攻め上がり、いわゆるアンダーラップはすぐに対戦相手に警戒された。山中が入って来るゾーンに網を張る守備陣だ。しかし山中は本来、ライン側のアップダウンにも優れた選手だ。インサイドが警戒されれば、それだけアウトサイドを攻め上がりやすくなる。

 偽SBの機能性を維持しながら、流れを見て同サイドのウイングを外側に追い越しマイナスのクロスを上げる、あるいはウイングが中に流れた局面で、相手SBの外側から裏に抜け出すといった選択肢を織り交ぜることで、的を絞らせない攻撃参加を繰り出した。

 第5節の清水エスパルス戦で、ウーゴ・ヴィエイラのゴールをアシストしたシーンは典型的なケースだ。中盤アンカーの扇原貴宏が斜め前方にサイドチェンジのロングパスを送ると、山中は相手の右SBの外側から背中を取り、ファーストタッチで加速して左足で折り返した。クロスというよりは「サイドからのラストパス」と表現してもいいようなピンポイントのボールであり、ウーゴ・ヴィエイラとの呼吸も完璧に合った見事なアシストだった。

第5節清水エスパルス戦のハイライト

 第12節のジュビロ磐田戦では、似たような扇原の展開から胸トラップでインサイド側に入り込み、インサイドMFから飛び出した天野純に絶妙なラストパスを通した。天野のシュートは相手DFにブロックされたが、山中の攻撃バリエーションの豊富さを示す象徴的なシーンだった。


モンバエルツ前監督も「代表レベル」と評価

 アシストやゴールには直結しないが、チームに大きく貢献するシーンも目立つ。例えばタイミングのいいオーバーラップやアンダーラップ、あるいは手前のスペースに入り込むことで相手のDFを動かし、結果として味方のマークを剥がすプレーなどだ。

 開幕当初は元韓国代表のユン・イルロクが左サイドの“パートナー”だったが、途中からは遠藤が左ウイングのレギュラーに定着。彼との縦のコンビは、試合を追うごとに攻撃パターンを増やした。チーム全体の共通理解も深まる中で連係の質も上がり、対戦するDFの脅威になっている。

 型にとらわれることなく、スペースを見つけて突くことを求めるポステコグルー監督。その指導が浸透するほど、横浜FMの攻撃バリエーションは増えている。それは、山中の脅威をさらに高める流れになっているようだ。

 特に第27節磐田戦と第28節ベガルタ仙台戦、山中は連続ゴールを挙げて注目を集めた。磐田戦ではドゥシャンから相手陣内中央でパスを受け、そのまま左足シュートでJリーグ屈指のGKカミンスキーを破った。仙台戦ではクロスのこぼれ球を拾った天野からのパスを受け、後方から思い切り良く駆け上がって左足を振り抜いた。

 左足に絶対的な自信を持つ山中は、ペナルティエリアの手前からミドルシュートを狙うこともできるし、アウトサイドからの高速クロスでアシストもできる。やや足りなかったのはボックス内に入って行く形だったが、そうした傾向にも変化が見られた。それは、第29節の北海道コンサドーレ札幌戦のことだ。

 1-1で迎えた42分、扇原と天野が左サイドに流れ、遠藤とともにトライアングルの形を作る。天野が左前方でボールを受けると、山中はその内側を一気に駆け上がり、ゴール左ニアサイドでスルーパスを受け、ゴール前のウーゴ・ヴィエイラに合わせて勝ち越しゴールをアシストした。味方とのコンビネーションによって、ゴールエリア付近まで絡んで行くバリエーションが加わった。

第29節北海道コンサドーレ札幌戦のハイライト

 ここまで4得点、そしてチームトップとなる8アシストを記録している山中は、横浜FMに欠かせない存在となっている。もちろん課題である守備のバランスはさらに高めていく必要があるが、組織的なクオリティが高まるにつれ右SBの松原健との関係なども改善されてきている。

 エリク・モンバエルツ前監督は山中を「代表クラスの資質がある選手」と評していた。2018年10月まで代表招集はないが、山中はポステコグルー監督の掲げる攻撃的なスタイルの中でさらなる進化を遂げている。今後、ますます目が離せない存在になっていきそうだ。

2001年以来のリーグカップ制覇を懸けて湘南ベルマーレと対戦する横浜FM。山中のプレーは戴冠へのカギを握る重要なピースの一つだ

Photo: Takahiro Fujii
Edition: Daisuke Sawayama

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J1リーグ偽サイドバック山中亮輔横浜F・マリノス

Profile

河治 良幸

『エル・ゴラッソ』創刊に携わり日本代表を担当。Jリーグから欧州に代表戦まで、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。セガ『WCCF』選手カードを手がけ、後継の『FOOTISTA』ではJリーグ選手を担当。『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(小社刊)など著書多数。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才能”」に監修として参加。タグマにてサッカー専用サイト【KAWAJIうぉっち】を運営中。

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