ルーカス・トレイラ。ウルグアイの小柄なMFに詰まった学ぶべき技術
footballista Pick Up Player
16日に日本代表と対戦するウルグアイ代表。エディンソン・カバーニを筆頭に多士済々のタレント擁する強豪の中にあって、要注意人物の一人となるのがルーカス・トレイラだ。今シーズン新加入したアーセナルでも早くも不可欠な選手となりつつある22歳のMFの、小さな体躯に詰まった類稀な能力を紐解く。
‘He comes from Uruguay, he’s only five foot five’
「彼はウルグアイからやって来た。身長は、たったの5フィート5」(編注:リーグ公式のプロフィールでは168cm=約5フィート6)
アーセナルサポーターが高らかに歌い上げたチャントは、彼のトレードマークとなるだろう。ベスト8に進出したロシアW杯のウルグアイ代表ではGS第3節ロシア戦でスターティングイレブンに抜擢されると、以降の試合はすべてフル出場した。彼が加わったチームは[4-4-2]の中盤フラットから同じ[4-4-2]でも中盤ダイヤモンド型へと陣形を変化させ、若き才能がそろった中盤の優位性を最大限に活かすことに成功。ロドリゴ・ベンタンクールやマティアス・ベシーノの強みを解き放ったのが、底でバランスを取り続けた小柄な俊英だったのだ。
パリ・サンジェルマンのマルコ・ベラッティと比較されることもある小柄な22歳は、興味深いことにベラッティと同じペスカーラのユースチームで育てられた。そして、その後移籍したサンプドリアで運命的な出会いを果たす。守備戦術を伝統的に重要視するイタリアの地で“ポジショナルプレー”の魅力に囚われ、マウリツィオ・サッリが育てたエンポリをさらなる高みへと導いたマルコ・ジャンパオロとの邂逅。マッシミリアーノ・アレグリやジャン・ピエロ・ガスペリーニ同様、ジョバンニ・ガレオーニの薫陶を受けた指揮官率いるサンプドリアの核となる。3センターの底でゲームの構築を担当。細かいショートパスを繋ぎながらリズムを生み続けるチームにおいて、判断力とテクニックに優れたトレイラは欠かせない存在となった。タメを作るプレーよりも、シンプルにボールを動かしながらチームを動かすことを好むMFは「ゲームのリズム」を崩さない。
身体の大きさでは測れない“プレス耐性”の高さ
攻撃面では軽快さと俊敏性を巧みに使いこなすプレーが目立ち、中盤の厳しいプレッシャーを回避する。ボールを受ける前に相手の体勢を崩す鋭いボディフェイントや多種多様なキックによるロングパスに加え、プレッシングを打開する短距離のドリブルも兼備。現状、ベラッティに比べクリエイティブな縦パスの面でこそ劣るかもしれないが、それ以外の能力では十分に比肩している。欧州フットボールの統計データを扱うメディア『Squawka』が「プレス耐性では、欧州でもトップクラス」と評価するMFの存在は、ウナイ・エメリの就任で「今まで以上に自陣からのビルドアップを重要視する」アーセナルでも欠かせない存在となっていくだろう。
サンプドリアとウルグアイ代表の両方で中盤の底としてプレーした彼の武器は攻撃面だけではない。一瞬で距離を詰めてしまう瞬発力を武器に「敵の間合いに飛び込む」対人守備は抜群で、インターセプトも得意としている。トレイラ同様、小柄だったが鋭いタックルで対人守備を制した武闘派MFワルテル・ガルガーノを彷彿とさせる。ロシアW杯のポルトガル戦では、クリスティアーノ・ロナウドを激しいショルダーチャージで弾き飛ばして多くのサポーターを驚かせた。ウルグアイ代表の中盤が伝統的に武器とする「激しさ」も兼ね備えている。
中盤の底のポジションで相手の狙いたいスペースを塞ぎながら、ボールを奪えるとみれば一気に前に出る。そんな動きを可能にしているのが、特筆すべき戦術理解力だ。ペスカーラで彼を指導したマルチェロ・ドナテッリは、「守備戦術の理解と、ゲームを読む能力において彼はトップクラスだった。中盤に生じるギャップを予測し、的確にカバーする。スペースを読み切ることで、インターセプトも可能になる。トレイラは、守備戦術の理解で『欧州の頂点に君臨する』セルヒオ・ブスケッツに匹敵する、守備戦術の理解者だ」と称賛する。
賢く、激しく、巧い。ウルグアイ代表に受け継がれる「闘志」と「技術」に、ヨーロッパ的な「戦術的知識」を融合させた存在として中盤を統率するルーカス・トレイラ。日本人と比べても小柄な体躯を最大限に活かし、プレミアリーグに挑む守備的なMFには「学ぶべき技術」が詰まっている。
ルーカス・トレイラ
Lucas TORREIRA
1996.2.11(22歳) 168cm / 60kg MF URUGUAY
Playing Career
2014-16 Pescara (ITA)
2016-18 Sampdoria (ITA)
2018- Arsenal (ENG)
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Photos: Getty Images
Profile
結城 康平
1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。