注目クラブの“ボランチ”活用術:ユベントス
シャビ、シャビ・アロンソといった名手たちが欧州サッカーのトップレベルから去ったここ数年、中盤で華麗にゲームを動かすピッチ上の演出家は明らかに少なくなっている。では実際のところ、各クラブは“ボランチ”にどのような選手を起用し、どんな役割を求め、そしてどうチームのプレーモデルに組み込んでいるのか。ケーススタディから最新トレンドを読み解く。
トランジションサッカー全盛の今、司令塔タイプのセントラルMFには居場所がない? 本当にそうだろうか。ここ数年、猛烈なプレスから中盤省略の速攻というユベントスの戦術は典型的なトランジション型だが、このチームにおいて低めのプレーメイカーは排除されるどころか、最も重要なポジションとなっている。一度ミランで定位置を失ったピルロがハマり、彼が去った後はよりプレースタイルが攻撃的なピャニッチが攻撃の舵取り役として機能している。むしろ攻守に切り替えの速いサッカーをやるからこそ、低めの司令塔は必要不可欠なのだ。
強固な守備ブロックを作ってボールを奪取し、そこからサイドのスペースへ一気に展開するのがユーベの基本戦術。プレスラインはいつも高めとは限らず、時には自陣まで下げることも厭わない。そんな時、攻撃時に高い位置を取る両サイドMFに素早くボールを供給するには、当然ながら精度の高いミドルパスが肝要となる。したがって、中盤の底で視野を確保し、精度が高くスピードに乗ったボールを蹴ることができるプレーメイカーの存在が重要になるのだ。
現在のシステムは[4-3-3]や[4-2-3-1]だが、役割は[3-5-2]の中盤の底としてチームを操っていたピルロと大差がない。ボール奪取のタスクはパートナーとなるMFに負ってもらいながら、後方のDFからボールを預かり攻撃のスイッチを入れる。彼自身の卓越したボールコントロールと、中盤に落ちてボールを触るディバラとの連係などで相手のプレスをかわして前を向いた後は、速く正確なボールを両翼のマンジュキッチやクアドラード、ドウグラス・コスタらに入れていく。
役割は、ボールをサイドに叩いた後にも残っている。アレグリ監督はサイドチェンジを頻繁に入れて相手を揺さぶることを志向するが、その際にも中継役となる。サイドに流れてボールをもらったのち、正確なパスで逆サイドへ振る。素早いサイドチェンジという意味でも今のユーベにとって司令塔は必要不可欠なのである。
ピャニッチ自身も高い突破力を誇る選手だが、ユーベではほぼ封印。前線での局面打開はディバラに任せながら、ボールラインより後ろで舵取り役に専念している。
■注目クラブの“ボランチ”活用術シリーズ
・RBライプツィヒ進化のカギ握る“マルチロール・モンスター”
・“第3のCB”かレジスタか。ローマのアンカーは監督で変わる
・攻守一体のバルセロナサッカーを演出する絶妙ポジショニング
・ビルドアップからボール奪取まで黙々とこなすリバプールの“6番”
・スパレッティの“レジスタ重視”を体現するインテルの中央ユニット
・基準はプレス強度。相手に応じてアンカーを使い分けるナポリ流
・敵に引かれる…その時、光る判断。守備網を切り裂く“PSGの起点”
・フェルナンジーニョの見逃せない“調整力”こそがシティ進撃の要
・サウールとコケはアトレティコに不可欠な“守備型”司令塔
・カンテ&バカヨコ。チェルシーの破壊者コンビに宿るコンテらしさ
Photo: Getty Images
Profile
神尾 光臣
1973年福岡県生まれ。2003年からイタリアはジェノバでカルチョの取材を始めたが、2011年、長友のインテル電撃移籍をきっかけに突如“上京”を決意。現在はミラノ近郊のサロンノに在住し、シチリアの海と太陽を時々懐かしみつつ、取材・執筆に勤しむ。