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4年前のW杯、一昨年のEURO出場を逃したデンマークが国際舞台に帰って来る。16年も続いたオルセン政権が終焉後、ハレイデ監督が作り上げたチーム。その中心に鎮座するのは、予選プレーオフ(0-0/1-5)第2レグで3ゴールを決めた26歳の背番号10だ。
W杯出場を争う運命のプレーオフでのハットトリックは、クリスティアン・エリクセンの名を歴史に残すことになるだろう。トッテナムで主軸として活躍するMFは、ポチェッティーノ監督のチームにおける「脳」として活躍する。激しい肉弾戦が繰り広げられるプレミアリーグでも、落ち着いたプレーを続けられる彼が他を圧倒する能力こそ「情報収集能力」だ。首を大きく振り、常に自分の背後を意識することでスペースを把握し、動きながら相手の背後へと回り込む。相手が足を止めるタイミングで味方に近づいてボールを受けることもあれば、逆を取ってスペースを使うことも可能だ。動きながらボールを受けるスキルに優れたMFはスペースを流動的に動きながら自分でスペースを使うことも、味方のスペースを生み出すことも自由自在。トッテナムでは、スペースに飛び込むデレ・アリやソン・フンミンとの相性が抜群だ。
相手を観察する能力は「ゴールを奪う」能力の向上にも直結しており、アヤックス時代に指導を受けたこともあるデニス・ベルカンプを彷彿とさせるようなボールコントロールスキルと正確なキック力を武器に、敵が距離を取った瞬間を把握。焦ってミドルシュートを狙ってしまいそうな場面でも冷静に首を振り、背後のスペースから相手に追われていないことを把握してからシュートを狙う。絶妙なコースに吸い込まれたアイルランド戦のゴールは彼の技術が詰め込まれた「職人芸」だった。
ドリブラーと“CF”置く両翼も面白い
献身的でありながら、ピッチを支配するプレーヤーへと成長したエリクセンは中央でボールを引き出し、味方がプレスを浴びる局面ではサポートに下がって行く。チェルシー所属のDFクリステンセンはボールを持ち上がることもできるので、エリクセンを囮にアクセントにもなれる。欧州予選では多くの出番を得たわけではないが、クラブでも出場機会を増やしているCB兼SBは競争を激化させるだろう。
中央からゲームを作る術に加え、デンマークはサイド攻撃も重要な武器としている。両サイドで起用されるシスト(セルタ)はウガンダ生まれの若手ウインガーで、伸びのある加速とトリッキーなボールタッチで敵を翻弄。アイルランド戦では左サイドで起用され、体を揺らしながらの駆け引きから何度も得点機を生み出した。股抜きやシザースなど仕掛けの幅も広く、対面するDFを苦しめる。エリクセンを警戒して中に絞れば、外のスペースから切り崩す。斜め方向のロングパスを得意とするCBケアー(セビージャ)も深いサイドへの展開において重要な役割を担う。
中盤のダブルボランチ、クビスト(コペンハーゲン)&デラネイ(ブレーメン)とエリクセン、主将のケアーとGKのシュマイケル(レスター)は不動のレギュラーだが、他のポジションは状況に応じて流動的に入れ替わる。一つの戦術的特徴としては、片方のサイドに突破力のあるシストを置く際に、逆サイドに本職CFの選手を配置することだ。RBライプツィヒのポウルセンか、フェイエノールトのニコライ・ヨルゲンセンが起用され、ユベントスのマンジュキッチのように「逆サイドからのセンタリングを押し込む」役割を担う。CFはアタランタのコルネリウスが一番手を担うが、経験豊かなベントナー(ローゼンボリ)も起用されており、若手のフィッシャー(コペンハーゲン)やドルベリ(アヤックス)もアピールを狙う。
伝統の組織的な守備に加え、中盤には「王」が君臨。欧州の強豪からも注目を浴びる若手ウインガーが切り崩し、中央には誰が出場しても遜色ないストライカーがそろう。ドイツやイングランド、スペイン、オランダ。各国に散る曲者たちを的確に束ねられれば、デンマークは十分にGS突破を狙えるチームだろう。
Photo: Getty Images
Profile
結城 康平
1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。