注目クラブのボランチ活用術:ローマ
シャビ、シャビ・アロンソといった名手たちが欧州サッカーのトップレベルから去ったここ数年、中盤で華麗にゲームを動かすピッチ上の演出家は明らかに少なくなっている。では実際のところ、各クラブはボランチにどのような選手を起用し、どんな役割を求め、そしてどうチームのプレーモデルに組み込んでいるのか。ケーススタディから最新トレンドを読み解く。
ゼーマンにルイス・エンリケ、そしてルディ・ガルシア。ローマで[4-3-3]を扱った監督は多かったが、運用はそれぞれ異なるものだった。そして当然、1ボランチに求められることも違った。ルイス・エンリケやルディ・ガルシアは、DFラインの前に鎮座してCBのカバーを中心とするフォアリベロの役目。特にルイス・エンリケは、ボールポゼッションの際は最終ラインまで引かせて後方からビルドアップする仕事を課した。一方、ゼーマンの場合は中盤の舵取りを担うレジスタ役だった。中央やや下がり目でボールを受けてから、インサイドMFと絡んでプレーゾーンを前進させていくのだ。
ゼーマンの愛弟子であるディ・フランチェスコ監督も、レジスタ役をこの位置の選手に求めている。タスクの基本はカウンター対応、ボール奪取などの守備、そして奪ったボールを攻撃へと切り替える第一歩となること。DFラインからボールをもらうためにインサイドMFとともにポジションを移す。それに合わせて少し間隔を取り、パスコースを作ってボールを受けやすい体勢を作る。そして受けたら前を向き、攻撃のスピードが上げられるような場所を見抜くのだ。サイドに出すか、前線に当てるかの判断はここでなされる。ディ・フランチェスコは中盤で手数をかけず、少ないパス数でゴールへ向かう攻撃を志向するため、ボランチから縦方向にパスを展開できるかどうかが非常に重要だ。敵陣での崩しの局面に切り替われば、上がったインサイドMFのフォローに回る。3列目からミドルシュートを狙うのも重要な役割だ。
サッスオーロ時代のディ・フランチェスコは、戦術を熟知していたマニャネッリに1ボランチの仕事をほぼ一存していた。そして今季のローマでは、主将になったデ・ロッシがその役目を務める。ボール奪取能力には議論の余地がなく、長短の正確なパスを駆使して攻撃を動かすこともできるが、彼の本質は守備寄りのアンカーだ。一方で開幕当初こそあまり出番がなかったが、今季から加入した攻撃性能の高いゴナロンが10月頃から出場機会を得て攻守の切り替えの速さをアピール。ディ・フランチェスコはデ・ロッシをCBに下げゴナロンと共存させるアイディアも温めていると噂されていた。ただ、両者の負傷などもあってか現時点で両者の共演は実現していない。
17-18チームスタイル:ポゼッションとカウンターの併用
中盤の底が基本プレーエリア。ただしDFラインに張り付くのではなく、インサイドMFと近い距離を保つ。ボールをもらいにどちらかが下がれば左右にスライドし、ある程度高い位置を保って組み立てやミドルシュートなど攻撃への関与も求められる。
Photo: Getty Images
Profile
神尾 光臣
1973年福岡県生まれ。2003年からイタリアはジェノバでカルチョの取材を始めたが、2011年、長友のインテル電撃移籍をきっかけに突如“上京”を決意。現在はミラノ近郊のサロンノに在住し、シチリアの海と太陽を時々懐かしみつつ、取材・執筆に勤しむ。