ベルバトフ、インドで“一歩下がる”。クールなFWがセントラルMF挑戦中
名優たちの“セカンドライフ”
欧州のトップリーグで輝かしい実績を残した名優たちが、新たな挑戦の場として欧州以外の地域へと旅立つケースが増えている。しかし、そのチャレンジの様子はなかなか伝わってこない。そんな彼らの、新天地での近況にスポットライトを当てる。
from INDIA
Dimitar BERBATOV
ディミタール・ベルバトフ
映画『ゴッドファーザー』を観て英語を学んだというエピソードの持ち主は、「クールなヒットマン」というプレーのイメージもその逸話の通り。冷静沈着な振る舞い、優雅なトラップ、そして素知らぬ顔で獲物を射止めるビューティフルゴールの数々。トッテナムやマンチェスターUでベルバトフが見せた美技の数々を、今でも忘れられないというファンは少なくないはずだ。
その後、フルアムを経て2014年にモナコへと移籍したあたりまでは欧州の“第一線”にいたが、それからのキャリアはあまり知られていない。15年夏、モナコを退団したベルバトフはギリシャに渡る。そこでPAOKの一員として1年を過ごしたが、次のシーズンは無所属となり、すっかり姿を消していたのだ。そんな彼の名を久々にメディアで見かけたのは、“雲隠れ”から1年後、昨年8月のことだった。
元マンチェスターUのあの選手と共闘
ベルバトフが加入を発表したのは、ISLのケーララ・ブラスターズ。そう、彼はインドで現役を続けている。ケーララのミューレンスティーン監督(当時)はマンチェスターUの元コーチであり、そのツテを生かしてベルバトフ、さらに同じくマンチェスターU育ちのDFブラウンをインドに誘うことに成功した。
そして指揮官は、チームで最も経験豊富かつ技術が高いベルバトフという選手を、どう生かすか考えた。ISL開幕から数試合はトップ下を任せたが、12月に入ると、なんとも斬新な構想が明かされた。それは、9番を背負う彼をセントラルMF、つまりかなり守備的な位置で起用するという奇抜なものだった。
「フットボールのやり方さえ知っていれば、そう難しいことじゃないよ。年齢を重ねれば、違った視野も必要になってくる。ユナイテッドやスパーズ時代も練習でMFをやったことがあるし、キャリアにおいて、“一歩下がる”時期だということさ」
百戦錬磨の元ブルガリア代表FWはすまし顔でそう語り、「たくさんボールに触れるしね」と続け、司令塔のポジションが気に入っていることを強調している。もちろん、「だからといって得点を狙わないわけじゃない。それは自分の本質だ」とつけ加えることも忘れずに。そして、チームのためにコンバートを受け入れた背景には、とある覚悟があることも明かしている。
「僕は攻撃をスタートさせるMFとしてプレーし、それによって若い選手の成長を手助けしたいんだ。僕のフットボールの見方を若者たちに伝えたい。食事から、練習までね。いい選手になりたければ、そういうディテールが大事なんだ」
ISLから地元の若手選手が羽ばたき、いつか欧州で活躍するのを楽しみにしているというベルバトフ。残念ながら、当の本人はケガの影響もあり1月末時点でリーグ13戦のうち6試合にしか出場できておらず、ノーゴールと本領を発揮できていない(編注:2月8日のATK戦でシーズン初ゴールををマーク)。“ボランチ歴”もまだ浅く、チームに際立った影響をもたらすこともできていない。それでも、本人は「選手も、クラブの周囲の人々もみんな礼儀正しいし、快適だよ。適応の問題はまったく抱えていない」と、ケガ以外に悩みがないと明るくコメント。37歳になったベルバトフは、クリケットの国であるインドのサッカー文化発展という新しい野望を胸に、人知れず充実のセカンドライフを過ごしている。
■プロフィール
Dimitar Berbatov
ディミタール・ベルバトフ
(ケーララ・ブラスターズ/元ブルガリア代表)
1981.1.30(37歳)
189cm/79kg FW BULGARIA
1998-01 CSKA Sofia
2001-06 Leverkusen (GER)
2006-08 Tottenham (ENG)
2008-12 Manchester Utd. (ENG)
2012-14 Fulham (ENG)
2014-15 Monaco (FRA)
2015-16 PAOK (GRE)
2017- Kerala Blasters (IND)
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Photos: Getty Images, Bongarts/Getty Images