注目クラブのボランチ活用術:レアル・マドリー
シャビ、シャビ・アロンソといった名手たちが欧州サッカーのトップレベルから去ったここ数年、中盤で華麗にゲームを動かすピッチ上の演出家は明らかに少なくなっている。では実際のところ、各クラブはボランチにどのような選手を起用し、どんな役割を求め、そしてどうチームのプレーモデルに組み込んでいるのか。ケーススタディから最新トレンドを読み解く。
カウンターサッカーに別れを告げたモウリーニョ以降の監督たちの課題は、攻守でバランスの取れたポゼッションサッカーを、トップ下タイプのMFをなるべく多く使っていかに成し遂げるか、だった。それに対するジダンの最新の回答がこれ。トップ下にイスコ(アセンシオ)、後方のゲームメイカーとしてクロースとモドリッチ、3枚目のCB的なアンカーにカセミロである。トップ下を使わずベイルを3トップの右で起用する[4-3-3]も併用しているが、絶対に不変なのが左クロース、真ん中カセミロ、右モドリッチのトリオである。
レアル・マドリーの両SBはマイボール時にはクロースとモドリッチよりも前にいる。特に左のマルセロはウインガーと呼んでもいいほどだ。となると、当然2CBだけの最終ラインを補強する必要があり、ここにフィジカルが強くハイボールを弾き返せるカセミロを入れ、結果を出したのがジダンだった。
守備的役割をカセミロがまかなってくれるおかげで、クロースとモドリッチはダブルゲームメイカーに専念できるようになった。ボールを左右に散らしたり、長短のパスでリズムを変えたり、ドリブルで持ち上がったり(モドリッチが得意)、3列目からミドルシュートを放ったり(クロースが得意)という得点に関与する仕事を分け合うのはもちろん、パスコースがない時の“駆け込み寺”をダブルでこなしていることで、ポゼッションが格段に安定したことも見逃せない。ボール支配率でバルセロナと競り合えるほどになり、カウンターからの失点が減り、気まぐれな攻撃陣が不出来でもしぶとく勝ち点が拾えたのは、クロースとモドリッチの長所(キープ力とパス力)を最大化し、短所(守備時の激しさ)を最小化する“不変のトリオ”結成の最大のメリットだった。
ただ、クロースとモドリッチの役割は少し違う。モドリッチの方が前気味で上がる回数が多く自由度も高い。クロースの方が後ろ気味でセンターラインのケアを意識している。よりリスクの大きいプレーを選択するのがモドリッチで、クロースは安全にシンプルにプレーする傾向がある。カセミロが欠場した場合アンカーに入るのが必ずクロースなのは、両者の個としての微妙な違いを表している。
17-18 チームスタイル:ポゼッション
モドリッチが前と右サイドが主戦場でクロースが左サイドと後ろが主戦場。上記のエリア分担は左SBマルセロの方がより攻撃的で背後のカバーリングが必要なことと、カセミロの位置でもプレー可能なクロースの特徴による。
Photo: Getty Images
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。