革新?伝統?欧州の注目アカデミー①ブンデス編
史上最高額を一気に倍以上も更新したネイマールを筆頭に、とどまることを知らない移籍市場のインフレ化。そのインパクトの影に隠れがちだが、こうした潮流の裏で激しさを増しているのが、価値が高騰する前のタレント争奪戦だ。その対象は、FIFAの移籍条項により国際移籍が不可能なU-17ワールドカップ世代も例外ではない。ここでは、欧州4大リーグの中でもタレントの発掘・育成に力を入れている4クラブの、独特のメソッドに迫る。
16-17シーズンはレッドブルグループにとって記念すべき1年となった。ドイツではRBライプツィヒが2位となって、ブンデス初挑戦でいきなりCL出場権を獲得。オーストリアではレッドブル・ザルツブルクのU-19チームがUEFAユースリーグで初優勝を果たした。マンチェスター・シティ、パリ・サンジェルマン、アトレティコ・マドリーを次々に撃破すると、準決勝ではバルセロナに、そして決勝ではベンフィカにいずれも逆転で勝利するという圧巻の初戴冠だった。
その決勝で活躍した選手の経歴を見ると、レッドブルグループの育成戦略が浮かび上がってくる。
途中出場から同点ゴールを決めたダカ(18歳)は、昨年ザンビアリーグの新人王に輝き、今年1月にリーフェリング(ザルツブルクのU-23チーム)にレンタルでやって来たストライカー。身体能力が高く、すでにA代表デビュー済みだ。DFラインをまとめたブラジル人のイゴール(19歳)はレッドブル・ブラジルの下部組織出身で、昨年夏にやはりリーフェリングにやって来た。昨年11月にU-20ブラジル代表に招集されている。左SBのギデオン・メンサー(18歳)は、ガーナの「ウェスト・アフリカン・フットボール・アカデミー」(フェイエノールト・アカデミーとレッドブル・ガーナが14年に合併したチーム)から昨年夏に加入した。
つまり、タレントたちがFIFAの国際移籍条項に抵触しない18歳になるまで待ち、条件を満たした瞬間、いち早く引き抜くのだ。しかもブラジルの系列クラブやガーナの提携組織を活用することで人材を囲い込み、スカウティングの精度を上げている。
この戦略はすでに大きな成功を収めている。2015年に当時16歳のDFウパメカノをフランスから獲得(EU加盟国内なら16歳から移籍OK)。翌年には当時20歳だったDFベルナルドをレッドブル・ブラジルから獲得した。2人はザルツブルクで期待通り成長し、昨季RBライプツィヒに移籍してCL出場権獲得に貢献した。18歳(EU加盟国なら16歳)で引き抜き→ザルツブルクでブレイク→RBライプツィヒ移籍という道筋は、今後レッドブルグループにとって育成の黄金ルートになりそうだ。
U-23を解体。“本体”の組織再編にも着手
ただ、そうやって外部からタレントたちがやって来るため、RBライプツィヒ自体の下部組織は戦略の見直しが迫られている。昨シーズンをもって、ラングニックSDはRBライプツィヒのU-23チームを解散することを決断。本来は19歳から23歳の選手を鍛えるための“2軍”だが、外部にその役割を担う提携クラブがあるため必要なくなってしまったのだ。
もはやRBライプツィヒにとって、ただのタレントでは満足できない。ラングニックSDは「もっと早い段階で才能を手に入れたい」と語り、EU加盟国の16歳のタレント獲得にさらに投資する方針を固めた。
そしてこれは、現在RBライプツィヒの下部組織にいる若手への警告でもある。昨年10月、U-19ドイツ代表の遠征中、RBライプツィヒU-19所属のMFイドリッサ・トゥーレとヤネルトがホテルで水タバコを吸ってボヤ騒ぎを起こしてしまった。すると今年1月、RBライプツィヒは2人を他クラブへ放出(ヤネルトはレンタル)。また監督と衝突したFWのダダショフも古巣のフランクフルトへ戻させた。プロ並みに厳しい基準で人員整理を進めている。
RBライプツィヒは3000万ユーロ(約38億円)をかけて、2015年にトップチームと下部組織のためのトレーニングセンターを建設した。最先端の練習設備がそろい、栄養にこだわった食事が提供され、欧州一の環境とも言われる。
世界に張りめぐらされたネットワーク、最高の環境、そして異なるクラブを統合する戦略によって、今後とてつもないモンスターが生まれてくるかもしれない。
欧州の注目アカデミーをリーグごとに紹介
Photo: Bongarts/Getty Images
Profile
木崎 伸也
1975年1月3日、東京都出身。 02年W杯後、オランダ・ドイツで活動し、日本人選手を中心に欧州サッカーを取材した。現在は帰国し、Numberのほか、雑誌・新聞等に数多く寄稿している。