名優たちの“セカンドライフ” #19
欧州のトップリーグで輝かしい実績を残した名優たちが、新たな挑戦の場として欧州以外の地域へと旅立つケースが増えている。しかし、そのチャレンジの様子はなかなか伝わってこない。そんな彼らの、新天地での近況にスポットライトを当てる。
from QATAR
XAVI Hernández
シャビ・エルナンデス
(アルサッド/元スペイン代表)
充実の“24時間サッカー漬け生活”を満喫中
昨年の12月28日、年末の恒例行事であるカタルーニャ選抜の親善試合がジローナで行われた。チュニジア代表と3-3の撃ち合いを演じた一戦で最も注目を浴びたのが、カタールに移籍して以降、初めて地元のピッチに戻って来たシャビだった。
ベンチに退くまでのおよそ65分間、正確なパスを散らし続けた背番号6は、ピッチを去る際に盛大なスタンディングオベーションを受けただけでなく、この日のマン・オブ・ザ・マッチにも選出された。
「ホームに戻り、ジローナの人たちと楽しむことができて満足しているよ。コンディションの良さを確認するとともに、人々の愛情を感じることができた」
37歳を迎えた今も変わらぬ非凡なプレービジョンとテクニックを目の当たりにし、訪れたファンは大満足の様子だった。
15年夏、新たな挑戦をスタートすべくカタールへと渡ったシャビは、同国の強豪アルサッドと年俸1000万ユーロの2年契約を締結。見慣れない白色のユニフォームにはトレードマークの背番号6とキャプテンマークが用意された。
1年目の昨季は国内リーグ3位、国内カップではPK戦の末に涙を呑み準優勝、ACLでも初戦敗退に終わりタイトル獲得こそ叶わなかった。だが、彼自身は「バルサとよく似たプレー哲学」を持つアルサッドのポゼッションスタイルを担う司令塔として不可欠な役割を担った。
2年目の今季は正確な配球によるゲームメイクはもちろんのこと、自らドリブルで持ち上がりマークをはがすプレーも積極的に見せており、すでに昨季(3ゴール)を上回る6ゴールを挙げている。
「どこでプレーしているかは関係ない。今も1本でもダメなパスを出したら、自分にうんざりしてしまうんだ」
バルセロナで背負ってきた大きなプレッシャー、過密日程と移動の日々から解放された今も、サッカーに対する意識の高さは変わっていない。それはカタール移籍を決めたもう1つの理由、指導者修行への取り組みにも表れている。
U-23カタール代表のTDも兼任
妻ヌリア、昨年1月に生まれた長女アシアと暮らす邸宅から徒歩約5分。世界最高と名高い最新の複合練習施設にて、シャビはカタール開催となる22年W杯へ向けた同国のエリート養成プロジェクトのアドバイザーとして選手育成に関わっている。さらに昨年からはラ・マシアで指導経験を持つカタルーニャ人監督フェリックス・サンチェスの下、U-23カタール代表のテクニカルディレクターも兼任している。
「ピッチにいるのが好きなんだ。オフィスより芝生の上の方がいい。とはいえ、僕はまだ現役。体が耐え得る限りプレーは続けたい。それが何よりも好きなことだから」
今も全力でプレーを楽しみながら、中東各国のユース世代の試合に足を運んでスペインとは異なる育成事情を学び、家ではリーガを中心に欧州各国リーグのチェックも欠かさない。新天地で24時間サッカー漬けの日々を送っているシャビは、あと2年は現役を続けながら、並行して指導者ライセンスを取得する予定だという。
「バルサの監督になることも視野に入れているよ。指導者として成功できるかどうかはわからないけど、サッカーを教えることがどんどん好きになっているんだ」
■プロフィール
XAVI Hernández
シャビ・エルナンデス
(アルサッド/元スペイン代表)
1980.1.25(37歳)
170cm / 68kg MF SPAIN
1998-15 バルセロナ
2015- アルサッド (QAT)
Photo: Getty Images
Profile
工藤 拓
東京生まれの神奈川育ち。桐光学園高-早稲田大学文学部卒。幼稚園のクラブでボールを蹴りはじめ、大学時代よりフットボールライターを志す。06年よりバルセロナ在住。現在はサッカーを中心に欧州のスポーツ取材に奔走しつつ、執筆、翻訳活動を続けている。生涯現役を目標にプレーも継続。自身が立ち上げたバルセロナのフットサルチームで毎週リーグ戦を戦い、スペイン人たちと削り合っている。