新型コロナウイルスのパンデミックにより、3月下旬から延期されていた2022年ワールドカップ南米予選が開幕した。ブラジルは10月9日、ホームでのボリビア戦(於サンパウロ)に5-0、13日、アウェーでのペルー戦(於リマ)に4-2と連勝。全10チーム中トップに立った。
19歳で大抜擢
ブラジル代表のチッチ監督は、昨年7月にコパ・アメリカで優勝した後、親善試合を生かして若い選手たちを少しずつ、新たに招集してきた。そして今回は、招集メンバー23人中7人が東京五輪世代。公式戦をスタートするにあたって、本格的な世代交代を感じさせたことが話題の1つとなった。
最年少は、レアル・マドリーでプレーする19歳のロドリゴ。これまでU−17、20、23の代表にも招集されてきたが、所属していたサントスが招集辞退を申し入れたケースが多く、年代別代表の常連というわけではなかった。
昨年6月にRマドリーに移籍してからは、10月にブラジルで開催されたU−22代表の親善試合日本戦に18歳で招集され、後半から途中出場。2-3で敗れた後は「日本のこの世代は強くて、東京五輪の金メダル候補の1つだと思う。でも、勝利以上に学ぶことの多い敗戦というのがある。僕らも今日の敗戦を今後に生かしていくつもりだ。」と答えた後、カメラに向かって頷いてみせるほど落ち着いていた。
フル代表にはその翌11月、親善試合アルゼンチン戦と韓国戦に初招集され、2試合で後半途中に出場している。その後の南米予選招集なのだから、大抜擢というわけだ。
チッチ監督は「ボールを受けるためのスペースを作れる。左右どちらのサイドでもプレーできるユーティリティー性があり、現代的な選手。1対1にも強い」と招集の理由を説明していた。
ボリビア戦で得点に貢献
セレソンに合流し、ロドリゴはRマドリー移籍後の自分の成長について聞かれて次のように語った。サントスでは主に左サイドでプレーしていたため、現在のような右サイドでのプレーへの適応についての質問だった。
「ジダン監督の考えによるものなんだ。両サイドでプレーすることを学べば、より多くのチャンスを得られると僕も思った。そして、それが僕にとって重要なことになりつつある。まだ適応の最中ではあるけど、クラブだけじゃなく、セレソンでも僕に選択肢を与えてくれるんだ」
「僕は年上の人が言うことをしっかりと聞くタイプだ。この1年と少し、いつでも心をオープンにすることによって、人生のあらゆる意味で成熟できたと思う。そして、多くの人が僕を手助けしてくれることをとても幸せに思う」
そして、今回の南米予選2試合。ロドリゴはボリビア戦の58分、3-0の時点で、エベルトン(ベンフィカ)との交代で出場を果たした。R・マドリーでの起用と同様、右サイドで30分間プレーし、多くのパスを成功させるなど、落ち着いたプレーを披露した。
注目は65分。ドリブルから、フィリペ・コウチーニョとのワンツーでゴール前に抜け出し、クロスにヘッドで合わせた。そのボールがボリビアCBのカラスコに当たってゴールへ。相手のOGではあったが、その瞬間はロドリゴの得点とみなされ、彼自身、ガッツポーズを取った。
その場面のことを、自身のインスタグラムで、ユーモアを交えて「神様、あれが僕のゴールじゃなかったとしても、アシストだったとは言えるよね!」と振り返ったほどだ。
“ロドリゴ”になるために
ちなみに、このボリビア戦では、少年時代からのアイドルと一緒にプレーすることも実現した。そのアイドルとはネイマールだ。
サントス出身選手の宿命のように、彼はいつも“新生ネイマール”と呼ばれ、比較をされてきた。ネイマールもそれを聞かれることが多く「僕も“新生ロビーニョ”と呼ばれてきたから、ロドリゴの気持ちはよく分かる。お手本となる選手がいるのはとても良い事だと思う。でも、誰かと比較される必要はない。“新生ネイマール”じゃなく、“ロドリゴ”と呼ばれる存在になればいいんだ」と、愛情を込めて語っている。
そしてロドリゴ自身、今まで何度となく聞かれたであろうその質問に、凜とした表情でこう答えた。
「サントスでのキャリアのスタートから、僕はずっとネイマールやロビーニョと比較されてきた。僕はいつでもその重みを取り除きながらやってきたんだ。いつでも『“ロドリゴ”になりたい、僕の歴史を築きたい』とね。彼らがそうしてきたように」
「僕はまだキャリアをスタートさせたばかり。“ネイマール”は彼しかいない。彼は唯一無二の存在なんだ。そして、僕は唯一無二の“ロドリゴ”になるために頑張るよ」
南米予選は全18節。ロドリゴの成長の行方はもちろん、彼を含む世代交代や、若手同士の招集枠争いも、これから国中を盛り上げる話題の1つになるに違いない。
Photos: Kiyomi Fujiwara, Lucas Figueiredo/CBF
Profile
藤原 清美
2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。