マルコ・ベラッティにジョルジーニョ、ロレンツォ・ペッレグリーニにニコロ・バレッラ。最近ではステファーノ・センシやマヌエル・ロカテッリらの若手も台頭してきた。少し前に嘆かれた人材難はどこへやら、現在のイタリア代表にとって、MFは層の厚いポジションとなっている。
そして今後、その中に割って入ると見られているのが20歳のサンドロ・トナーリだ。
ピルロとガットゥーゾの特徴を兼備
アンドレア・ピルロを彷彿とさせる正確なミドルパスを供給する一方、ジェンナーロ・ガットゥーゾのようにハードなタックルも辞さないたくましさも兼備するプレーメーカーだ。
すでにA代表は経験済みで、今回の代表ウイークではU-21代表に回されたが、近いうちにA代表に定着するのも間違いないとされる逸材である。
その彼は今秋、買い取りオプション付きのレンタルでブレシアからミランに加入した。1000万ユーロのレンタル料に加え、完全移籍の場合は1500万ユーロの支払いと、実質2500万ユーロのお金が動くことになった。
自身は生粋のミラニスタ
セリエAの経験はブレシアでの1年間だけという若者にこれだけの価値が付けられるのは異例だが、その舞台裏について10月11日、ブレシアのマッシモ・チェッリーノ会長が明らかにした。
『イル・メッサッジェーロ』のインタビューに応えたチェッリーノ会長は、トナーリの獲得に向けて「交渉で先行していたのはインテルだった」と語ったのだ。しかも「マロッタCEOは彼を欲しがり、コンテ監督も彼を欲しがっていたのだ」という。加えてインテルは他クラブよりも交渉で先行しており、「インテルがいたということで、オファーを出していた他のクラブも交渉を諦めて撤退した」のだという。
ところが、トナーリはミラニスタ。「彼自身が将来を知りたがっていた。サンドロは子供の頃からミランを応援していた。そして私も、金銭面で価値を示してくれたところを尊重した」と交渉のテーブルに着いたミランが条件で上回ったことを示唆した。
チェッリーノ会長は「素晴らしいフロントになる」とパオロ・マルディーニTDを持ち上げつつ、インテルについては「どう動くべきかを間違った」とした。
チェッリーノは最後の選択をトナーリにさせ、「その意思を自分は尊重する」という旨をトナーリに告げたのだという。
「本当は引き留めたかったのだが、コロナ禍で先行きが不確かになったこともあって、彼の夢を尊重した」とは会長の弁。クラブ間交渉が先行していても、選手のためにそれを撤回しながら、売却者としての利益もしっかり確保する立ち回りのしたたかさが垣間見えた。
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Profile
神尾 光臣
1973年福岡県生まれ。2003年からイタリアはジェノバでカルチョの取材を始めたが、2011年、長友のインテル電撃移籍をきっかけに突如“上京”を決意。現在はミラノ近郊のサロンノに在住し、シチリアの海と太陽を時々懐かしみつつ、取材・執筆に勤しむ。