人気解説者でありながら、YouTubeチャンネル『SHIN KAISETSU』で新しいサッカーの楽しみ方を追求する戸田和幸さん。熱狂的なトッテナムファンで、クイズというジャンルの魅力を再定義して幅広い層に提案している伊沢拓司さん。テレビ、YouTubeなど様々なプラットフォームで活躍する二人に、サッカーの伝え方をテーマに語り合ってもらった。
後編は、OTTサービスのDAZN、YouTube、SNS等、新たなプラットフォームの登場でこれからのサッカーの楽しみ方がどう変わっていくのかについて考えてみた。
「有料解説」という新しいメディアの形
――戸田さんが今のサッカー解説について思うところはありますか?
戸田「僕はクイズ業界の事情はわからないんですけど、サッカー解説者の課題は、結局それだけで飯が食えるのかということなんです。1本いくらみたいな相場があったとして、週に1本では生活ができない。ヨーロッパだと解説者にもスターがいたり、明確にポジションがあって、数もそんなにたくさんはいなかったりします。だからこそ、その人にしっかりスポットライトが当たって、責任を持ってやる。それだけの対価を得ているからこそ、責任を持って仕事をするという部分もあります。Jリーグ中継も含めて、どれぐらいの人が『俺はこの仕事で生きていく』と覚悟を決めているのかな、というところですね。そこは結構大きいと思っています。
今は、僕が(1つの試合のために多くの準備をして臨むやり方を)勝手にやってるだけですから。今後の自分への投資という意味で自家発電でやっているんですけれど、解説者だけで食っていけるかと言ったら難しい。ポジションの認識のされ方とステータスが上がれば、もっとそこに熱量を投じて取り組む人が増える可能性はあると思います」
伊沢「クイズ業界としても、クイズだけで生活を保てるのは今はたぶん僕含めごくわずかだと思います。プレー、もしくは出演だけで食べられる人はいない。今のままで子どもたちがクイズで飯を食おうと思ってくれるかというとまだ疑問が残るし、趣味ならば面白そうという段階にまだまだとどまっているなという感じです。ありきたりな言い方ですけど、『夢を持ってもらいたいな』とは思ってますね」
戸田「ステータスとして、夢のある職業にしていきたいですよね。僕も自分の仕事に誇りを持っていますが、元選手が意欲を持って解説者を目指すかどうかと言うと、経済的な理由もあり花形の職業にはなっていないのかなと思っています」
――僕らもまさに悩みどころですけど、マネタイズの問題は本当に難しいですよね。
伊沢「僕はフットボリスタの課金モデルはすごくいいなと思っています。僕も『QuizKnock』というメディアを運営する中で、いかにマネタイズするかは考えました。マスに受けるようとすると振り切った戦略は取りづらくて、あるところでプラトー(停滞状態)がくるんですよね。突き抜けたごく一部の大手メディア以外は、拡大できるほどの資金は集まらなくなる。その点、フットボリスタはターゲットを絞って振り切って、理想状態になっているのかなというか。『知名度ではなく中身』という掲げた理想像に対して適切なアプローチを選べている。プレミア会員とオンラインサロンがあって、そこで育った人が新たな知見を生んでくれるし、サッカー批評を育ててくれる。無料のニュース記事じゃあ満足できない次元にきている読者はすでに出てきているので、理念面でも運営面でも凄いな、と思っています」
――伊沢さんにそう言っていただけると勇気づけられます。ありがとうございます。勝手ながら、戸田さんとフットボリスタは目指すところが似ているなと感じていて、『SHIN_KAISETSU』で試合解説を有料で販売するモデルはコミュニティ化しているところも含めて、すごく面白いと見ていました。あの有料プロジェクトを始めた経緯は何だったんですか?……
Profile
浅野 賀一
1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。