新型コロナウイルス感染症(covid-19)対策手順を巡り、イタリアのサッカー界では論争の拡大が止まらない状態となっている。
ナポリ、トリノに向かえず
ことの起こりは10月3日、翌日にアウェイのユベントス戦を控えていたナポリが、トリノへの出発をカンパーニャ州の地域保健所(ASL)によって止められたことだ。
10月2日、PCR検査によってピオトル・ジエリンスキに陽性反応が出た。その後、対策手順に沿って検査を実施したところ、今度はエリフ・エルマスに陽性反応が現れた。ナポリは陰性となった残りの選手やスタッフで移動を開始していたが、出発直前になってASLからストップが掛かり、感染者の濃厚接触者として14日間の自宅待機が勧告されることとなった。
ただ、問題は数日前に、選手が13人いれば試合を開催する旨の規則をイタリアサッカー連盟(FIGC)が決めていたことだ。ユベントスは選手を予定通りピッチに送ると発表し、アンドレア・アニェッリ会長は「ASLからの制止が掛かる時は、規則が守られていない時。(ナポリの)デ・ラウレンティス会長は延期を申し出たが、肝心なのは規則だ」とナポリ側を批判した。
結局ナポリはトリノに来ることができず、規則に従えばナポリの不戦敗が成立する状況となった。一方、FIGCのガブリエレ・グラビーナ会長も「間違った者は代償を払うことになる」と規則優先の立場を貫いた。
規則自体に問題あり
ところが、保健当局が問題にしていたのは、その規則自体だった。ナポリの出発を止めたカンパーニャ州ASLナポリ第1支部のチーロ・ベルドリーバ部長は『コリエレ・デッラ・セーラ』の取材に対し「イタリア保健省の内部通達に沿って自主隔離を勧告した。市民の健康よりも経済的理由が優先される状況に介入をした」と発言し、「我われの義務はすべての市民の健康を守ることであり、サッカー選手かそうでないかの区別はしない」と宣言。
また、ジエリンスキの在住地域である同ナポリ北第2支部のマリア・ロザーリア・グラナータ女史も地元ラジオ局のインタビューに対し「ナポリは何も間違えてはいなかったし、我われも異なる振る舞いをしたわけではない。ジェノバのASLがジェノアの出発を止めていればこういう話にはならなかった」と、9月27日のナポリvsジェノア戦で感染拡大が起こったことを引き合いに出し、他地域のASLを批判した。
困ったのは政府である。『ラ・レプッブリカ』によれば、FIGCの対策手順を承認したビンチェンツォ・スパダフォーラ・スポーツ大臣は「決められた対策手順には従って欲しい。ASLも特別な場合にのみ介入し、対策手順そのものには介入しないでいただきたい」と陳情した。
もっとも、医療関係者の間では「規則そのものが現実と合っていないので再考されるべきでは」という声も存在する。
なお、ナポリは感染者を除く全選手、スタッフに再検査を行い、6日までに全員の陰性が判明。今後は自宅待機ではなく合宿所での集団隔離に移行し、練習などの競技活動は認められる運びとなった。
Photo: Getty Images
Profile
神尾 光臣
1973年福岡県生まれ。2003年からイタリアはジェノバでカルチョの取材を始めたが、2011年、長友のインテル電撃移籍をきっかけに突如“上京”を決意。現在はミラノ近郊のサロンノに在住し、シチリアの海と太陽を時々懐かしみつつ、取材・執筆に勤しむ。