9月26日(土)の週末に行われたプレミアリーグ第3節で、フットボールという競技の絶対的なタブーである“ハンド”が波紋を呼んだ。
ハンドが続々と議論に
クリスタルパレスvsエバートン(1-2)では、至近距離からのヘディングがパレスのDFジョエル・ウォードの腕に当たってPKの判定となった。ウォードは自然な姿勢だったし、目の前でヘディングを放たれたにもかかわらず、ハンドを取られてしまい決勝点を奪われたのだ。これには73歳になるパレスのロイ・ホジソン監督も「フットボールの楽しみを壊すな」と試合後に激怒した。
その翌日に行われたトッテナムvsニューカッスル(1-1)でも、95分にハンドによるPKの判定があった。こちらは空中戦を競り合ったエリック・ダイアーの腕にボールが当たったのだ。ダイアーは背を向けながら飛び上がり、腕もそこまで上げていないが、やはりVARの判定によりPKと判断された。
その一方で、リバプールvsアーセナルの大一番(3-1)では新戦力のディオゴ・ジョタがアンフィールドでのデビュー戦でいきなりゴールを決めたが、実はシュートの直前に腕に当たっているため、本来はゴールが認められるべきではなかったのだ。
その他にも、マンチェスター・ユナイテッドが試合終了の笛が鳴った後にVARの判定によりPKを獲得するなど、とにかく第3節は“ハンド祭り”だった。当然、現地メディアはこの問題を大々的に報じた。中でも冒頭の2試合のハンドが注目を集め、「手や腕を用いて競技者の体を不自然に大きくする」と記された競技規則の“不自然”の解釈が議論されることになった。
そして全クラブが出席したプレミアリーグのオンライン定例会議でも“ハンド”が議題にのぼり、プレミアリーグが正式に“不自然”の解釈を少し緩めるように審判団に通達したと報じられた。これで無駄なPKが減るといいのだが、そう簡単にはいかないだろう。
記者たちの独自改革案
そこで英紙『The Telegraph』の記者たちが、それぞれ独自の抜本的な“改革案”を発表したので、どんな内容なのか紹介したい。
例えば、サム・ディーン記者は「審判の常識に任せろ」と説く。
「ある規則の、ある言葉の、ある解釈に縛られているからいけない。審判たちは、見たままに自分たちの常識で判断すべきだ。もちろんミスは起こるだろう。だが、人為的ミスの方が現状よりは納得できる」
ジェレミー・ウィルソン記者も「フットボールは最も主観のスポーツだ」と審判の裁量案に一票を投じる。「永遠に完璧を目指すのではなく、時には審判の判断を受け入れるべきだ」
一方で、以前の競技規則に戻すべきだと主張するのはジム・ホワイト記者だ。
「“意図的に手や腕でボールを扱った場合”という旧ルールにも問題はあるが、少なくとも生理学的には一貫性があった。“意図的”の判断は難しいが、今の状況は明らかに馬鹿げている。以前のように、解釈はピッチ上の審判だけに任せるべきだ」
ジョン・パーシー記者もルールを戻す意見に賛同し、「戻さなければ、“プレーしたことのない者”によってフットボールが壊される」と警鐘を鳴らす。
「VARだけでも混乱だが、新しいハンドのルールはさらにサポーターからフットボールを奪いかねない。ハンドの判定は意図的かどうかだけに戻すべきだ」
腕のないユニフォームを着用?
ダン・ゼキリ記者はVARを非難する。VARありきのルールは間違っているというのだ。
「ハンドのルールは昔から漠然としており、審判の判断に委ねられてきた。そんな不完全な妥協策でもフットボールは100年以上続いてきたのだ。それがVARによって、ルールと不釣り合いなほどに“監視”が厳しくなった。この新しいハンドのルールはテクノロジーに対応するために作られてしまっている。だが本来、VARはフットボールの“使用人”であって“主人”ではないのだ」
そんな中で「ユニフォームのデザイン」という斬新なアイデアを出したのはジェイソン・バート記者だ。
「キットサプライヤーは気づくべきだ。彼らは腕を通す穴が開いていないユニフォームをデザインすべきなのだ。選手たちは、それを頭から被るだけ。当然、体から腕を離すことができない」
「もしかするとペンギンみたいな動きを強いられるかもしれないが、少なくともこれでハンドの混乱は消える。そんなデザインが無理でも、例えば紐で腕を結ぶようにして“不自然”な体勢を取れなくすればいい。腕を体に縛り付ければ、どんなに厳しい審判もハンドを取れなくなるはずだ」
最後のバート記者の意見は冗談だと思うが、そんな冗談が他の真面目な意見と並べられるほど、現在の“ハンド”のルールは改善が必要だということだ。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。