試合開催か延期か、最終決定が下されたのは、キックオフ予定時刻まで10分を切っていた。新型コロナウイルスのクラスターが発生したフラメンゴがパルメイラスのホームに赴いてのブラジル全国選手権第12節、9月27日の対戦だ。
対策徹底の中でクラスター発生
もともとFWガビゴウやGKジエゴ・アウベスら主力を含む5人の選手がケガで離脱中だったフラメンゴ。
今回、リベルタドーレス杯の2試合を戦うためにエクアドル遠征に参加したメンバーの中から、現地滞在中からリオデジャネイロに戻った直後までに、合計19人の選手と17人のスタッフ(ドメニク・トレン監督やクラブ会長、チームドクターらを含む)が、感染テストで陽性となったことを受けての騒動だった。
フラメンゴは全国選手権開幕とリベルタドーレス杯の再開にあたり、CBF(ブラジルサッカー連盟)やCONMEBOL(南米サッカー連盟)の定める衛生ガイドラインに加え、8月からクラブ独自の安全対策を実行している。
外部との接触を減らすために、本拠地であるリオデジャネイロ開催以外のすべての試合にチャーター機で往復する他、空港では構内を歩かず、滑走路で待つ航空機のタラップまでバスが送り迎えをすること、これまで2人1部屋の相部屋にしていた遠征先のホテルを1人ずつの個室にすること、自前の感染検査の機器を遠征先にも持ち込むことなど、投資を惜しまない体制には、7月末に就任したばかりのドメニク監督も感嘆するほどだった。
それでも起こってしまった、まさかの規模のクラスター。9日間におよぶ遠征中、チームで行動していたことが、一気に拡大した原因だと言われる。
強行された試合は1-1のドロー
1試合目のインデペンデンエンテ・デル・バジェ戦(於キト)を終えた後、選手6人の感染が分かった時点で、2試合目のバルセロナ戦(於グアヤキル)に備えてU-20の選手4人をチャーター機で現地に送り込み、感染者を先に連れて帰るなど、緊急対応に追われたフラメンゴ。
一方で、CBFには9月27日のパルメイラス戦の延期を申し入れたが拒否されてしまう。CBFは全国選手権1部の全20クラブとのオンライン会議を行い「出場できる選手が13人(少なくとも1人のGKを含む)いれば試合は開催される」という、UEFA(ヨーロッパサッカー連盟)にならった当初からのガイドラインの再確認と、同時に「大会登録選手数を、これまでの40人から、50人に増やす」という変更について話し合い、承認された。
フラメンゴはさらに、7人のU-20の選手たちを合流させるなどの準備をしながら、ブラジルスポーツ裁判所、リオ州地方労働裁判所などに延期を訴えたが、最終的に開催となった。
迎え撃つパルメイラスが、感染の可能性を危惧してホームスタジアムへの受け入れを拒否したり、試合の延期に同意したり、ということはなかった。パルメイラスとしては、優勝争いのライバルであるフラメンゴが相手なら、事情はどうあれ弱体化している時に叩いておきたい。しかも、両クラブの対戦はここ3試合連続でフラメンゴが勝利を収めている。
ただ、蓋を開ければ試合は1-1の引き分け。感染を免れた数少ない選手であるペドロのゴールが称えられ、第4GKだったウーゴ・ソウザの好セーブが絶賛された展開は、フラメンゴにとって勝利にも値する引き分けだ。大役を果たした21歳のウーゴ・ソウザは、マン・オブ・ザ・マッチを獲得して涙を流し、感動さえ呼ぶ結末となった。
フラメンゴへの批判も
しかし、感動ばかりではない。今回のフラメンゴには、各クラブの首脳陣から批判が集まっているのだ。クラスターに対してではない。
「試合延期の条件がガイドラインで決まっているにもかかわらず、延期させるためにスポーツ裁判所や労働裁判所の民事訴訟にまで持ち込んだことには、罰則を適用すべきだ」「こんなエゴがまかり通り、延期が決定していたら、大会そのものを中止してしまえ、と言うところだった」と、厳しい言葉が飛び交っている。
また、今回の感染者であるエベルトン・リベイロとロドリゴ・カイオは、10月9日の南米予選開幕戦のブラジル代表にも招集されているが、代表チームへの集合は10月5日であり、2人のフラメンゴでの練習復帰予定はその3日前。無症状とは言え、自宅隔離直後のフィジカルコンディションが心配だ。
同じ時期に発生した、フルミネンセの選手9人が感染というクラスターがまるで普通のことのように報道されているのは、ニュースの送り手の感覚の麻痺もあるのかもしれない。
当然のことだが、クラスターの影響は、やはり大きく後を引く。
Photos: Kiyomi Fujiwara, Alexandre Vidal/Flamengo, Getty Images
Profile
藤原 清美
2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。