8月8日にブラジル全国選手権が開幕してから、約1カ月が経った。ただでさえ年間スケジュールが過密なブラジルサッカーだが、今年はさらにパンデミックによる遅れのため、週末と週半ばに試合をする急ピッチの進行となっている。
州選手権やコパ・ド・ブラジルとの兼ね合いや、新型コロナウイルスのクラスター発生によって急遽延期された試合もある中、クラブによってまちまちではあるが、9月11日の時点で全38節中第7節から第9節までを消化している。
1カ月で7チームが監督解任
そして「ブラジルサッカーの文化」とまで言われる監督交代も、急ピッチで起こっている。全国選手権1部を戦う全20クラブの中では、開幕から約1カ月でゴイアス、コリチーバ、アトレチコ・パラナエンセ、スポルチ・レシフェ、ブラガンチーノ、バイーア、コリンチャンスの7チームで監督が解任された。
コリチーバでは、今年就任したエドゥアルド・バホッカがパラナ州選手権決勝で宿敵アトレチコ・パラナエンセに敗れ、さらに全国選手権で開幕から4連敗を喫したことで解任となった。その後、8月25日に就任したのがジョルジーニョだ。
ジョルジーニョは、鹿島アントラーズや、ドゥンガのアシスタントコーチを務めたブラジル代表以外にも、2005年からブラジルの9つのクラブの監督を歴任している。
鹿島で2012年のナビスコカップとスルガ銀行チャンピオンシップ、バスコダガマでは2016年リオ州選手権を制するなど、指導者としてタイトルも獲得している。
一方で、2011年のフィゲイレンセのように、全国選手権1部に昇格したばかりのクラブを指揮した時には、「1年で降格しないこと」が目標だったチームを“ダークホース”と呼ばれる存在に成長させ、20チーム中7位でフィニッシュさせている。
今年は1月からフリーだったため、地元リオデジャネイロに住み、彼自身が運営する、経済的に恵まれない子供たちのための施設の仕事など、慈善活動を盛んに行うと同時に、週に1、2度はチームを組むアシスタントコーチやフィジカルコーチ、プレー分析担当者などの技術スタッフとのオンラインミーティングを続けていた。
選手目線の指導
今回のコリチーバは自身2度目の指揮となる。前回は昨季。当時、全国選手権2部だったチームをリーグ戦残り15節の時点で引き受け、9勝5分1敗の快進撃で、目標だった1部昇格を達成した。
その手腕としては、守備のシステムを徹底し、ミスを減らすことで試合のイニシアチブを取れるようになっていったこと、適材適所の起用で選手のクオリティを引き出したことが挙げられる。そして、選手の精神面のコントロールについても高く評価されていた。
ジョルジーニョが様々なレベルのクラブを指揮してきた中で、インタビューのたびに尋ねた質問がある。それは「代表とクラブにかかわらず、またクラブのランクにかかわらず、あなたが指揮する際に持ち続けている監督哲学とは?」というものだ。
彼の答えは一貫している。
「僕は選手だったから、勇気を持つこと、自分のポテンシャルを信じること、ポジティブでいることが、選手にとってどれだけ大事なことかを理解している。それを伝えることだ」
「ただ、苦しい時もあるし、自分で自分を盛り上げるのが難しい選手もいる。だから、例えばこのように話すんだ。『僕らは勝てる。でも、自分自身を信じなかったら勝つことなんて絶対にできない。だから、誰が信じてくれなくても、僕らは信じよう。勝てるんだ。そのために戦おう』とね」
「クオリティの高いチームを作れる」
コリチーバの1部昇格を決めた後、クラブからは続投を求められたものの、技術スタッフの構成など、クラブとの間に考え方の相違が生じたことによって退任することになった。
そのコリチーバ監督に復帰し、最初の1週間は、試合日程の過密な中でも午前午後の2部練習を行うなど、ハードに取り組んだ。
それについて「対戦相手によって戦略は変わるとは言え、残りのシーズンを戦い抜くための、1つのプレースタイル、チームとしての1つの姿勢を作りたかった」と説明していた。
そして、4連敗していたコリチーバは、ジョルジーニョの初陣となったスポルチ・レシフェ戦で勝利。
試合後、彼は「勝つことに慣れるために、この勝利はとても重要なものになった」とし、「ただ、守備、中盤、攻撃のすべてにおいて、もっと強くならなければならないし、バランスも必要だ。この後は『今日以上にやれるんだ』ということを、チームに理解させるようにやっていく」と語っていた。
その後、敗れたアトレチコ・ミネイロ戦後もこう言っていた。
「チームには降格圏を脱するためのあらゆるポテンシャルを備えている。簡単ではないが、これまでの戦いでその力があることがわかったし、監督である僕にとっての選択肢もわかった。クオリティの高いチームを作れると確信している」
ジョルジーニョの就任後、ここまで4試合で1勝2分1敗。コリチーバはじわじわと上昇しつつある。
Photos: Kiyomi Fujiwara, Coritiba
Profile
藤原 清美
2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。