9月7日、アタランタMFのヨシップ・イリチッチが本拠地ベルガモ・ジンゴニアの練習場に姿を見せた。7月11日のユベントス戦を最後に戦列を離れて以来、およそ2カ月ぶりのことだった。
精神面の問題に直面か
その間、クラブはイリチッチが戦線を離脱した理由を詳しく明かさなかった。新型コロナウイルス感染症によるロックダウンを経て、練習を再開したタイミングで足首を故障。その後復帰を果たすも、第32節のユーベ戦が最後の試合となった。
その後、なかなか試合をせずにファンの心配を呼んでいたが、8月1日には母国スロベニアの実家に戻っていたことが明らかになった。
ここでようやくクラブは「フィジカルコンディションの遅れのため」と発表するが、地元メディアは「それはクラブがイリチッチを保護するために出した表向きの理由で、実際は解決すべき大きな問題を抱えていた」と報じた。
問題はフィジカルではなく精神面。明言はされなかったが、周囲はそんな理解を固めていく。チームはUEFAチャンピオンズリーグの準々決勝パリ・サンジェルマン戦を控えていたが、もうそんな場合ではない。ジャン・ピエロ・ガスペリーニ監督は8月2日、「たぶんCLには間に合わない」とした上で「来季に彼を戦力として復帰させられるかどうかを心配している」と語っていたのだ。
周囲は全面サポートを約束
しかし1カ月後、イリチッチはベルガモに現れた。CLに参戦していたアタランタは、他クラブに遅れてこの日からトレーニングを再開。イリチッチは自家用車で練習場に到着し、体は動かさなかったもののチームメイトの練習を見学したという。
練習場の前にはファンが作成した励ましのバナーが掲げられており、「ヨシップ、諦めないで。ベルガモは君ととともにいる」というメッセージが記されていた。
複数の地元紙は「イリチッチの実戦復帰には時間を要する」と報じている。スロベニアに帰国中、面談を持った同国サッカー協会のラデンコ・ミヤトビッチ会長は、地元紙『FUZBAL』のインタビューでイリチッチについて「専門家のケアを受けている。不安を覚えており、時間がかかる。イタリアで起こったことの結果だ」と話した。
ベルガモはウイルス禍で甚大な被害を受けた地域であり、その時に受けた心理的な不安を引きずっている、というのだ。ミヤトビッチ会長は「どんなことでもすると彼には言った」と全面的なサポートを約束したという。
『ガゼッタ・デッロ・スポルト』によれば、アタランタは心理学士を付けて日々イリチッチとカウセリングを持ち、まずはゆっくりとしたペースで普段の生活に精神的な安定を持ってもらう方向だという。
Photo: Getty Images
Profile
神尾 光臣
1973年福岡県生まれ。2003年からイタリアはジェノバでカルチョの取材を始めたが、2011年、長友のインテル電撃移籍をきっかけに突如“上京”を決意。現在はミラノ近郊のサロンノに在住し、シチリアの海と太陽を時々懐かしみつつ、取材・執筆に勤しむ。