「勉強のためにプロサッカー選手から引退する。狂気の沙汰かもしれないが、自分の夢を追いかける」。
7月29日、セリエCレッジャーナのキャプテンであるDFアレッサンドロ・スパノーは現役引退を発表した。26歳のプロサッカー選手は、学業を理由にキャリアを終了させる決断をした。
プレーオフ決勝翌日、試験にパス
スパノーは2014年7月からレッジャーナに所属。途中チームとともにセリエD落ちを経験したものの、2018-19シーズンからキャプテンマークを巻いてレッジャーナを牽引した。
CBのレギュラーとしてセリエC復帰に貢献した後、19-20シーズンのセリエC・グループBのレギュラーシーズンではチームを2位入賞へと導き、続く昇格プレーオフでは7月22日の決勝でバーリを下して優勝、主将として21年ぶりのセリエB昇格をもたらした。
しかし、スパノーには、試合の翌日に別の”決戦”が待っていた。実はサッカーの傍らでニコラウス・クザーヌス私立大学の通信課程で経済学と経営学を学んでおり、7月23日は学士号取得の試験だった。
「投資における資本蓄積:プライベートエクイティとベンチャーキャピタル」なる学士論文を提出し、面接試験に見事パス。経営とマネージメントの学士号を取得し、卒業を果たしたのだ。プロスポーツと学問との両立を達成したことで、ビンチェンツォ・スパダフォーラスポーツ担当大臣からも祝福のメッセージが寄せられた。
「心の声に従う時が来た」
だが、話はそこで完結しなかった。スパノーは世界的に名高いハルト・インターナショナル・ビジネススクールから奨学金を得ることになったのだ。9月から約20カ月の間、ロンドンと上海、そしてサンフランシスコを股にかけて留学をすることになる。そうなると当然、スパイクは脱がなければならない。
そして彼は決断した。「プレーオフに集中する目的から誰にも話さなかった」というスパノーは、7月29日に本拠地レッジョ・エミリアで記者会見を開いて現役引退を宣言した。
「僕の運命は決まった。ここからは心の声に従う時が来た。僕の中の別の部分が肘を突いてくる。サッカーから遠く離れた道を選ぶことにする」。このように説明したスパノーを、クラブも快く送り出し、Facebookの公式ページに「レッジョ・エミリアの微笑みとエネルギーは、今後も君とともに歩み続ける」と激励のメッセージを掲げた。
ファンも「できればセリエAでもキャプテンとして戦って欲しかった」と別れを惜しむ一方、「誰もがプロサッカーの世界を羨ましがるものなのに、それを捨てるのは大変な勇気。頑張って」というメッセージを寄せていた。
なお、サッカー情報サイト『Transfermarkt』によれば、プロサッカー選手で学位を取得しているのは全体の0.8%。プロサッカー選手のキャリアと学業の両立は、まだまだ困難なようだ。
Photo: Getty Images
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神尾 光臣
1973年福岡県生まれ。2003年からイタリアはジェノバでカルチョの取材を始めたが、2011年、長友のインテル電撃移籍をきっかけに突如“上京”を決意。現在はミラノ近郊のサロンノに在住し、シチリアの海と太陽を時々懐かしみつつ、取材・執筆に勤しむ。