リーガ2部大混乱の原因は、どうやらPCR検査の精度にありそうなことが明らかになってきた。
試合延期で不公平な状況が発生
7月20日、2部リーグ最終節キックオフの数時間前、フェンラブラーダの選手6人、スタッフ2人が陽性だったことが判明。デポルティーボ対フェンラブラーダが延期となった。
ご存じの通り、最後の2節はライバルの結果を知ってプレーすることの有利さを排除するために、全試合が同時刻キックオフとなっている。
だが、残り9試合はそのまま開催されたため、以下のような不公平が起きた。
1 デポルティーボが他会場の結果により降格
2 フェンラブラーダがデポルティーボ戦に負けなければ1部昇格プレーオフ出場権確保
対戦前に降格確定というデポルティーボのモチベーションが下がることは避けられない。そんな彼らを相手にフェンラブラーダが引き分け以上の結果を出すのは、簡単なことのように思える。一斉開催なら避けられた不公平な状況である。
このため、デポルティーボら降格に関わるクラブ、エルチェら昇格プレーオフ出場権に関わるクラブから不満が湧き上がり、延期された試合の開催日、その後のプレーオフの開催日程も宙に浮くことになった。
降格なしで来季の2部リーグを24チームで開催する案や、デポルティーボによる訴訟の話も出ており、大混乱となっているわけだ。
「不明者」の解釈に差異あり
そのすべての原因となったのが、フェンラブラーダに対して行われたPCR検査の精度にあったらしいことが明らかになろうとしている。経緯はこうだ。
7月18日(土)、試合開始48時間前にPCR検査を実施したところ、選手の1人に「不明者」が出た。これは陽性か陰性か判明しない状態で、感染初期に起こるらしい。クラブはこの選手を隔離した。
7月19日(日)、PCR再検査。3人のスタッフに「不明者」が出た。クラブは彼らを遠征から外した。
7月20日(月)、試合当日の早朝にPCR検査。結果が出る前に飛行機に搭乗。到着後、8人の陽性が判明――。
19日の時点で「不明者」ではなく「陽性者」であったなら遠征は中止され、最終節の延期も検討されただろう。問題は「不明」をどう解釈するかだ。
“潜在的陽性者”とするか、推定無罪ならぬ“推定陰性者”とするか。フェンラブラーダとラ・リーガの見解は後者。陽性は出なかったのだから遠征は正しかった、という言い分である。
だが、ラ・コルーニャの保健当局の見解は違う。陽性の可能性があったのだから遠征は中止すべきだった、というものだ。感染症対策では、怪しき者は感染者として扱う、というのが常識である。
練習中またはコンペティション中に陽性者が出たらどうするのか? これに対するラ・リーガの答えは「該当選手を外して活動を続ける」だった。
だが、陽性者の周囲にいたスタッフやチームメイトの扱いはどうなるのか?という疑問は宙に浮いたまま。ましてや“偽陰性”の可能性など考慮されていなかった。
国の回復の象徴であるリーガ再開を押し進め、1部リーグを無事終わらせた。しかし2部は最後の最後でつまずいた。ラ・リーガの貢献は大きく、責められない部分もある。この出来事が8月のUEFAチャンピオンズリーグとヨーロッパリーグの教訓になることを望む。
Photo: Getty Images
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。