6月28日、バルセロナMFアルトゥールがトリノを訪れ、ユベントスへの移籍を前提としたメディカルチェックに応じていたことが明らかになった。アルトゥールは27日のセルタvsバルセロナ戦に出場した後、深夜にトリノに到着。そして翌日にアリアンツ・スタジアム併設のメディカルセンター「Jメディカル」でメディカルチェックに応じたという。
ユベントスがアルトゥールの獲得に乗り出していたことは周知の事実で、ミラレム・ピャニッチとの”交換トレード”も噂されていた。そのため、バルセロナからは別途メディカルスタッフもトリノを訪れていたと『コリエレ・デッロ・スポルト』が報じている。
6月29日に両クラブが発表
そして29日、ユベントスとバルセロナの両クラブはアルトゥールとピャニッチの移籍を発表した。ユーベからはバルセロナに7200万ユーロの移籍金、並びに1000万ユーロの成功報酬が支払われ、アルトゥール本人とは2025年6月までの5年契約を結ぶ。
一方、バルセロナからは6000万ユーロの移籍金(支払いは4度の分割が可能)、および500万ユーロの成功報酬が支払われることとなった。
両者ともシーズン終了までは所属クラブに残ることが発表されたが、ならばなぜシーズン終了まで発表を待たなかったのか。来シーズンを見据えた戦力補強という理由の他に、6月30日を最終日とする2019-20シーズンの決算を考えなければならなかったから、という指摘が地元メディアでなされている。
注目すべきは、ユベントスの公式発表に記されていた次の数字である。「今回のオペレーションにより、連帯貢献金や付帯の税金などを除いて4180万ユーロの収入が生じる」。”保有資産”である選手の売却で得られた売買差益、つまりキャピタル・ゲインのことだ。
収入増か、コスト増か
サッカーの経済面に特化した情報サイト『カルチョ・エ・フィナンツァ』とよると、仕組みは以下の通り。ユベントスは2016年、3200万ユーロの移籍金をローマに支払ってピャニッチを獲得したが、選手には年間およそ440万ユーロの減価償却が生じており、現在の”残余価値は”およそ1310万ユーロ。つまり、6000万ユーロの移籍金が支払われると、連帯保証金や諸税金などを考えない場合には4690万ユーロのキャピタル・ゲインが生じることになるという。
これで今シーズンに生み出したキャピタル・ゲインは合計で1億3500万ユーロに達し、これを6月30日の決済に盛り込むことができる。アルトゥール売却に踏み切ったバルセロナも同様の狙いだったと見られている。
実はこの日、ユーベはU-23の主力だったMFシモーネ・ムラトーレのアタランタへの完全移籍を発表しており、やはり「680万ユーロの利益が得られる」と発表している。新型コロナウイルス感染症の影響で経営難がささやかれる中、赤字減らしに尽力する事情が窺い知れる。
ただし、得をする話ばかりではなく、アルトゥールの獲得はコスト増に繋がるのではないか、という指摘もある。
税抜き年俸は推定で500万ユーロとピャニッチの年俸(650万ユーロ)からは若干値下がりし、緊急経済成長対策に係る法令により、海外から招へいした人材の俸給には減税措置が受けられる。
だが、7200万ユーロという移籍金によって生じた”資産”からは契約年数に合わせ年間で1440万ユーロの減価償却が生じるため、結局のところアルトゥール1人で年間2100万ユーロのコストがかかることになるという。
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Profile
神尾 光臣
1973年福岡県生まれ。2003年からイタリアはジェノバでカルチョの取材を始めたが、2011年、長友のインテル電撃移籍をきっかけに突如“上京”を決意。現在はミラノ近郊のサロンノに在住し、シチリアの海と太陽を時々懐かしみつつ、取材・執筆に勤しむ。