いろいろ条件付きではあるが、今季中にスタジアムに観客が戻ってくるかもしれない。6月2日、「保健省がリスクを検討する。フェイズ3で可能であればそうする(観客を入れる)だろう」と、保健省の責任者が言明したのだ。
フェイズ3は有観客イベント開催可能
きっかけは、ラス・パルマスの会長が6月13日開催の2部リーグ、対ジローナ戦で観客を入れたい意向を表明したことだった。
スペインは現在、感染状況による段階的な緩和策を採っており、リーガが再開する来週からは、ラス・パルマスのあるグラン・カナリア島はフェイズ3に入る。
規制緩和の最終段階であるフェイズ3では、例えばコンサートは収容人数の50%まで、教会のミサは同75%まで、闘牛もソーシャルディスタンスを維持することで開催できる。「ならばサッカーも――」という声が起きるのは当然のことであり、その可能性が開かれたわけだ。
ただし、13日の試合で観客を入れることは、『エル・パイス』紙の報道によると、政府関係者から衛生上の理由の他、公平ではないという理由で否定された。
フェイズ3の最終決定権は政府でなく自治体にあること、コンペティションの公平性を保障するのは政府の仕事ではないことを考えるとおかしな判断だが、まあ常識的に考えて、来週からいきなり数千人単位のお客さんを入れる体制を整えるのは難しいし、ラス・パルマスや同じフェイズ3に入るテネリフェ、オビエドなどだけが観客を入れ、他は無観客というわけにもいくまい。
ラス・パルマスの発案も、観光業がGDP(国内総生産)の14.6%を占めるスペインにおいて、夏のバケーション時期を前に有数のリゾート地であるカナリア諸島の安全性を海外にアピールしたい意図があったとされる。
6月下旬に観客動員の可否を検討
観客を入れるかどうかの判断は、遅れているバルセロナとマドリッドも含め、全土がフェイズ3に入る6月22日の週に検討されることになる。
同じフェイズ3でも、8800人が亡くなったマドリッドと同153人のカナリア諸島ではリスクが桁違いだが、それをどう見るか。無難なのは今季は無観客とすることだが、それでは観光業のプロモーションにならない。
では仮に認められた場合、何人まで入れられるのか?
ラス・パルマスは収容人数の約3分の1、1万1000人を24時間前の予約制で入れる考えだった。
教会のミサ並みに75%になるのか、コンサート並みに50%になるのか、闘牛と同じく社会的距離の制限付きか――。フェイズ3では県を超えた自治州内の移動も認められるから、復興を活性化させる意味では朗報となるのは間違いない。
フェイズ0の緩和策がスタートして1カ月、政府の想定以上に再感染は起きていない(それでも1日600人程度の感染者は出ているのだが)。
今季中に観客を入れるアイディアは、楽観的なスペインの現在の空気を反映していると言える。
Photo: Getty Images
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。