ドイツのブンデスリーガにならって、プレミアリーグも6月17日の再開以降、交代枠を「3」から「5」に増やす可能性がある。交代枠増については再開までに議論して20クラブで採決を取る予定だが、実際に5枠に増えればリバプールにとってはありがたい追い風になると、地元紙『Liverpool Echo』が報じている。
交代枠増加はリバプールに有利
同紙のイアン・ドイル記者は、リバプールの選手層について言及する。レアル・マドリーの前に屈した2018年5月のUEFAチャンピオンズリーグ決勝では、負けているにもかかわらず交代枠は2つしか使わなかったというのだ。
しかし、あれから積極的な補強を行った結果、今季はここまで公式戦48試合で交代枠を使い切らなかったのが4試合だけ。最近は多彩な戦術を披露しているが、やはりユルゲン・クロップ監督と言えば“ゲーゲンプレッシング”が代名詞であり、そのインテンシティを維持するために交代カードは欠かせないのである。
さらに、リバプールは30年ぶりのリーグ制覇まで“マジック2”に迫っており、優勝は時間の問題。そのため、ドイル記者は控え組にも出場機会が増えると推測し、期待の若手であるDFネコ・ウイリアムズ(19歳)、MFカーティス・ジョーンズ(19歳)、MFハービー・エリオット(17歳)にはプレミアでの“初スタメン”の可能性があるとしている。
記事では触れられなかったが、前述の若手3名より出場機会の増加が見込まれるのは、何と言っても日本代表のエース、南野拓実だろう。冬にザルツブルクから加入した南野は、これまでプレミアで8試合にベンチ入りするも、起用されたのは3回だけ。いまだにプレミアで先発出場を果たせていないが、交代枠増加で必ず出場機会が急増するはずだ。
5枠導入に反対する声も
しかし、ちょっと気になることもある。導入が見込まれる「5枠」に対して、異を唱える者が少なからずいるのだ。
15位ブライトンのグレアム・ポッター監督は「交代ルールを変えれば開幕時とは“違うもの”になる」と、競技自体が変わってしまうことを懸念している。無論、そこには戦力格差が広がるだけという本音も隠れている。
事実、「5枠」に期待する記事が見られるのは、リバプールやマンチェスター・シティといった選手層が充実しているクラブなのだ。
そう考えると思い出されることがある。FAカップでは、2016-17シーズンから試合が延長戦に突入した場合に4枚目の交代カードが認められるようになった。過密日程のイングランドでは当然の成り行きに思えたが、「選手層の厚いチームが勝ちやすくなり、ジャイアントキリングの機会が奪われる!」と指摘する声があったのを覚えている。
それから「違うもの」というポッター監督の表現には、公平を重んじる英国人の誇りを感じる。というのも、英国には「ゴールポストを動かす」という表現がある。
例えば2022年ワールドカップ・カタール大会が冬開催に変更になった際には、夏開催で投票した後にFIFAが条件を変更したとして「ゴールポストが動かされた」と当時の英スポーツ大臣が痛烈に批判したものだ。
今回は選手の安全性が問われているし、交代枠が2つ増えるだけである。それでも、全チームにとって平等でないのなら「ゴールポストを動かす」のは慎重に検討すべきだ。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。