前回は、アンダーカテゴリーのドイツ代表を統括するマイケル・シェーンバイツの言葉を借りながら、ドイツサッカー連盟が新たな仕組みを導入する背景を説明した。また、仕組みの1つとして、3人で1つのコーチングチームを結成し、各年代の代表チームを担当することも紹介した。
スペインを参考にした育成の仕組み
今回は、残りの4点を見ていこう。
2 ポジションごとの個別トレーニングの導入
シェーンバイツは「ポジションごとに、それぞれ特に習得しなければならないことがあるのは事実だ」と語る。とりわけストライカーとウイングの選手のクオリティを上げることに重点を置いていることも明かした。
「私たちは“ドイツのレバンドフスキ”を育てたいと思っている。同時に、ニャブリやサネのようなクオリティを持った選手たちにも注目している」と話すシェーンバイツは、元ドイツ代表ストライカーのミロスラフ・クローゼや同CBロベルト・フートなどからアドバイスを受けているという。
彼ら元ドイツ代表の指導者たちによるビデオを使った講演や、特別トレーニングを通じて、世界トップレベルのアタッカーを養成することが目的だ。
3 より自由を
シェーンバイツ自身も以前述べていたように、アンダーカテゴリーで対戦した際に、ファイナルサードの部分でスペインの選手たちのほうが1対1に自信を持ち、積極的に仕掛けていたという。
これまでは戦術的な部分に力点を置いていたが、今後はより選手自身の「判断」や「決断」の部分を学習できるようにするという。「戦術的」というのは、監督の指示を遂行するのみならず、選手自身が置かれた状況の中で、意志を持って最善の判断を選択することも意味するようになる。
4 すべての監督に“3年ルール”を
この制度を導入したことで、現在U-15代表の監督はU-16、U-17まで持ち上がりで3年間指導することになる。また、U-18の監督はU-19、U-20までの3年間を担当する。これにより、各アンダーカテゴリー間の監督やスタッフ間でのライバル意識や、嫉妬、給与面での軋轢などを防ぐことになるという。
これまで、そういった監督同士の私的なモチベーションによって結果至上主義につながってしまった反省から、この制度を導入したようだ。
「選手たちの成長が何よりも重要なことだ。3年サイクルの制度を導入することで、監督たちの担当する役職が原因となる嫉妬や、給与の増額などの討論も予防できるようになる」(シェーンバイツ)
5 トレーニングは試合前の準備以上のもの
「育成年代の競争は、年代に合わせて調整されなければならない。結果、順位、昇格や降格といった経験も、選手たちにとっては重要だが、重点をずらさなければならない」とシェーンバイツは説明する。
この点でもスペインを参考にしているようだ。「スペインでは、試合はトレーニングで行ってきたことの“確認・試験”にあたる。ドイツでは、トレーニングは次の試合のための“準備”にすぎないことが多々ある」
育成年代やチームの置かれた状況に応じて課題を設定し、PDCAを回しながら順序を踏まえて選手たちを育てていく。このドイツサッカー連盟の決断が、結果につながるかどうか。答えが出るのは、少なくとも3年後だろう。他国の発展に危機感を募らせるドイツサッカー界の動きは、吉と出るか。
Photo: Getty Images
Profile
鈴木 達朗
宮城県出身、2006年よりドイツ在住。2008年、ベルリンでドイツ文学修士過程中に当時プレーしていたクラブから頼まれてサッカーコーチに。卒業後は縁あってスポーツ取材、記事執筆の世界へ進出。運と周囲の人々のおかげで現在まで活動を続ける。ベルリンを拠点に、ピッチ内外の現場で活動する人間として先行事例になりそうな情報を共有することを心がけている。footballista読者の発想のヒントになれば幸いです。