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かつての人工芝ブームから一転、天然芝の香りが戻ったオランダ

2020.05.26

 オランダ1部リーグで人工芝のピッチが消え始めている。今オフはデンハーグとVVVフェンローのスタジアムでピッチが天然芝に張り替えられる。

21世紀初頭、人工芝ブームに

 オランダリーグにおける人工芝ピッチの始まりは2003年、ヘラクレスの本拠地ポルマン・スタディオン(現アルフェ・アシトスタディオン)だった。

 当時のUEFAは人工芝ピッチの将来性を探っており、中規模リーグのクラブに対して20万ユーロの助成金を出してテストしようとしていた。その1つにヘラクレスが選ばれたのだ。『グリーンフィールズ』ブランドで知られるテン・カーテ社はヘラクレスのスポンサーだ。

 この頃、アヤックスの本拠地アムステルダム・アレナ(現ヨハン・クライフ・アレナ)も人工芝への切り替えを真剣に検討していた。

  天然芝が育つには太陽光・風・水が必要だ。 ドーム型のアムステルダム・アレナでも水は撒けるし、風も送風機で送ることができるが、どうしても太陽光が足りず、平均して年間5回も芝生を張り直し、アヤックスは多大な経費をつぎ込んでいた。また、芝生の根付きが悪いことから負傷者も多かった。

 AZの監督を務めていたルイス・ファン・ハールは2006年にDSBスタディオン(現AFASスタディオン)が開場する前、「ピッチを人工芝にすべきだ」と主張し(結局は予定通り天然芝が採用された)、オランダサッカー協会やアヤックスの首脳陣も「10年後には多くのスタジアムが人工芝になる」と予言した。

 しかし、やがてアヤックスの人工芝に対するトーンは下がっていく。その理由は、アムステルダム・アレナのピッチの質が改善されたため。巨大な移動式ランプシステムによって、屋内でも十分な光を芝生に当てることができるようになったのだ。

 そしてハイブリットの芝生が生まれたことによって、アヤックスは天然芝ピッチを守り続けることになった。

経済的理由からも人工芝が増加

 それでも「多くのスタジアムが人工芝になる」という予言は当たった。オランダのスタジアムで人工芝が爆発的に広まったのは2013年のこと。2003年から2012年までで人工芝を採用したのは7クラブあったが、2013年だけで1部のデンハーグとカンブール(当時1部。2003年から08年まで人工芝。その後、天然芝に戻した)、2部リーグ勢を併せると合計8チームが人工芝へと鞍替えしたのだ。

 この傾向は14年も続き、当時2部リーグに所属していた5チームが人工芝を選んだ。

 かつてのオランダ人は人工芝のピッチにイノベーションを夢見ていた。しかし、2013年頃のピッチの人工芝化は、純粋に経済的な理由によるものだった。

 初期投資こそお金がかかるが、敷いてしまいさえすればその後の維持費はかからない。冬場対策のためにKNVBから義務付けられていたピッチ温暖化システムも、人工芝のピッチなら必要ない。そのため、予算規模の小さいクラブを中心に、人工芝のピッチが急激に広まった。

天然芝への回帰が続く昨今

 2016-17シーズンにはオランダ1部・2部リーグ38チームのうち、なんと20チーム(1部5チーム。2部15チーム)が人工芝のピッチを採用した。

 この状況に対し、選手や指導者、ジャーナリスト、サポーターが危機感を募らせ、大々的な“反人工芝キャンペーン”が始まる。2018年には欧州カップ戦のグループステージに進出したチームが受け取れるUEFAの分配金・テレビ放映権料の5%を、天然芝を採用しているチームに補助金として支給するルールができ、天然芝への回帰をオランダリーグ全体で促していった。

 2018年にドルトレヒト、アルメレ・シティといった2部リーグの中でも規模の小さいクラブが天然芝に戻した。さらに2019年にはアヤックスからバルセロナへ移籍したフレンキー・デ・ヨンクの育成費500万ユーロを受け取ったRKCが、これを元手に天然芝を敷いた。

 来シーズンはズウォレ、エメン、スパルタ、ヘラクレスの4チームが人工芝を採用するが、ヘラクレスを除く3チームが天然芝への切り替えを前向きに検討している。

 2部リーグはまだ20チーム中11チームが人工芝のピッチだが、この数字も徐々に減っていく見込みだ。

 「オランダのスタジアムに天然芝の香りが戻ってきた」。これがオランダメディアの慣用句になっている。


Photo: Getty Images

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中田 徹

メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。

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