サン・シーロを改修するのか、それとも新スタジアムを建設するのか。ミラノのスタジアムを巡って地元では意見が分かれている。
「文化的な関心はない」
1990年イタリアW杯に備えた大改修から30年が経過し、一部スタンドのセメントに崩落が報告されるなど、さすがに陳腐化が目立ってきたサン・シーロ。
インテルとミランは昨季秋から、新スタジアムを自前で建設する提案を共同で行った。両者に共通するのは、現在駐車場となっている敷地内に集客数約5万人程度の新スタジアムを建設するという案。敷地内にはホテルやオフィスビル、ショッピングセンターなどを併設して収益を出せる形にする一方、現在のスタジアムは一部のモニュメントを残して取り壊し、屋外の多目的施設にするという計画だ。
もっとも、地元ではサン・シーロの継続使用を望む声も多かった。ミラノが開催都市の1つになる2026年の冬季五輪では開会式の会場として設定されたこともあって「改築したいならばその後だ」という声が地元の政治家から上がっている。
また、1925年から使用してきたスタジアムを取り壊すという案には抵抗が強く、ジュセッペ・サーラ市長はロンバルディア州の文化遺産委員会に見解を求めた。
そして5月21日、同委員会のフランチェスカ・マリア・パオラ・フルスト委員長は見解を発表した。
「1925-26シーズンの使用開始時、並びに37-39年の改修によって建てられた建造物は20世紀半ばに増築されたスタンドの残余部分にすぎず、文化的な関心はない」
文化遺産保護法によれば、保護されるべき建造物は築70年以上のもの。サン・シーロの2階部分や1990年代に増築されたその対象物はそれに満たず、取り壊しも可能だ、という判断がなされたということだ。
新築には多くの反対意見も
両クラブはサン・シーロの建物にこれ以上改修の余地がなく安全基準を満たせないこと、また改修工事を進めながらの集客が難しいことなどの理由により、新スタジアムの建造を主張していた。
ただ、取り壊しについてのお墨付きを当局から得ても、難しさは残る。新スタジアムと周辺施設の建設そのものについても、反対の声は止んでいない。周辺住民は「居住区に近いスタジアムは反対」「クラブを黒字にしたいがためのショッピングセンターなどいらない」と反対運動も起こした。
また、現在敷地内で18%に留まっている緑化についても、新スタジアム建築の際は州の指針に則る数字まで上げるように、との要求もあった。市議会議員の間からも「文化遺産委員会の決定は尊重するが、新スタジアムの建設には引き続き反対だ」との声が上がった。
当初スタジアムの新築に反対の立場を取っていたサーラ市長は「計画を見直して緑を増やしてくれたから、私としては悪くないと思っている。ただ、意見は分かれると思う」と発言している。
2024年の完成を目指す建築計画は7月にも承認されるという。だが、市民からの支持を得るには、まだもう少し時間がかかりそうだ。
Photo: Getty Images
Profile
神尾 光臣
1973年福岡県生まれ。2003年からイタリアはジェノバでカルチョの取材を始めたが、2011年、長友のインテル電撃移籍をきっかけに突如“上京”を決意。現在はミラノ近郊のサロンノに在住し、シチリアの海と太陽を時々懐かしみつつ、取材・執筆に勤しむ。