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日本人唯一の欧州制覇。小野伸二のフェイエノールト時代を振り返る

2020.05.12

 世界中のサッカーが中断している中、テレビやインターネットを通じて過去の名勝負が蔵出しされている。オランダでも1970年代から昨季までのクラシカルマッチが多数、放映されている。

 フェイエノールトは1970年5月6日にセルティックを破ってチャンピオンズカップ(現UEFAチャンピオンズリーグ)を、2002年5月8日にドルトムントを破ってUEFAカップ(現ヨーロッパリーグ)を戴冠しており、最近のオランダでは連日、この2試合をテレビで堪能することができた。

快挙だったフェイエノールトのUEFA杯制覇

 3月末から4月上旬にかけて、FOXスポーツは2002年の歓喜を振り返るため、準々決勝のPSV対フェイエノールト(1-1)、フェイエノールト対PSV(1-1。PK5-4)、準決勝のフェイエノールト対インテル(2-2)、決勝のフェイエノールト対ドルトムント(3-2)を放映した。その前のフライブルク戦、レンジャーズ戦も名勝負で、どれもが記憶に残る激戦だった。

 日本では「UEFA杯の優勝なんていずれ忘れられてしまうもの」とフェイエノールトの優勝を軽んじる論評もあったが、私は「この優勝は未来永劫、語り継がれるもの」と確信していた。

 あれから18年が経った。私は、その思いをさらに強くしている。なにせ、あの頃のオランダリーグはビッグリーグとの差が広がりすぎてしまい、「1995年にアヤックスがCLを制したが、オランダリーグのチームが欧州を制覇することは二度とないだろう。もしかするとUEFA杯(EL)なら運に恵まれて頂点に立つことがあるかもしれないが、それも数十年に一度だろう」と言われていた。

 事実、オランダリーグ勢の欧州制覇は2002年のフェイエノールトが最後である。フェイエノールトのUEFA杯獲得は、快挙として今も記憶されている。

笑顔と涙で爆発したデ・カイプ

 さらに、決勝の舞台はフェイエノールトの本拠地デ・カイプだった。ファン・ホーイドンクがPKとFKを決めて2-0とし、国営放送『NOS』の実況が「ピエール・ファン・ホーイドンクの夜です!」と絶叫した。

 そして小野伸二のスルーパスからトマソンが抜け出して3-1と突き放した時、ファンは優勝を確信したが、退場者を出して1人少ないドルトムントも実にドイツらしいしつこさで粘り、1点差に詰め寄ってきた。スリリングな戦いに終わりを告げるタイムアップの笛が鳴った時、デ・カイプは笑顔と涙で爆発した。ロッテルダムっ子にとって、なんと幸せな瞬間だっただろうか。

 残念だったのは85分、小野がベンチに退く際に受けた盛大なスタンディングオベーションの音声が、テレビでは小さかったこと。古くから日本サッカーを見てきたベテラン記者が、観客席であのスタンディングオベーションを体感し「日本人の選手がヨーロッパの大舞台でこんな拍手を受けるなんて……。自分も思わず涙ぐんだ」と試合翌日に述懐したほどの凄さだった。

今も語り継がれる小野伸二

 「UEFA杯の小野」と言えば、PSVとの2試合に渡る激闘でマルク・ファン・ボメルとマンツーマンでやりあったことが忘れられない。フェイエノールト番の記者の中には「自分が見てきた中でフェイエノールト対PSVが一番の名勝負」という者もいたこれらの試合の中で、小野とファン・ボメルは他の選手を寄せ付けぬ独自の空間を作り、ファウルをした後に握手をし、好プレーの後に笑顔を交わし、ボールがラインを割った際には言葉を交わしていた。

 ファン・ボメルが76分に決めた先制ゴールは、巧みなフリーランニングで小野を置き去りにしたもの。このときばかりは小野も頭をかいた。1点を追うフェイエノールトは85分にスクランブル体制をかけ、小野を左ウイングバックの位置に起いたため、ファン・ボメルとのマッチアップは終わった。その後、ファン・ボメルは延長突入から間もない95分に2枚目のイエローカードを受けて退場した。

 雌雄はPK戦で決することになった。小野はフェイエノールトのファーストキッカーだった。その表情は緊張で強張っていたが、右足、左足、右足……とリフティングを続けながらペナルティスポットに向かい、最後は軽く高く上げてからボールをセットし、冷静にPKを決めた。これもまた小野の名シーンだった。

 さらに、私は昔買ったUEFAカップ優勝記念DVDを見返した。欧州でのルーキーイヤーで最高の結果を残した小野は「日本人選手として初めての欧州優勝。僕はうれしい」とオランダ語で答えていた。今もなお、小野が日本人唯一の欧州カップ戦勝者だ。

 2002年のフェイエノールトは歴史に残るチームだった。その中で輝いた小野の名前を今もオランダ人が口にするのは、至極当然のことなのである。


Photo: Getty Images

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PSVドルトムントフェイエノールトマルク・ファン・ボメル小野伸二

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中田 徹

メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。

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