やっとスペイン政府がプロスポーツの再開にGOサインを出した。感染者数、死亡者数ともにここ2週間ほど減少傾向にあることで、政府は非常事態宣言を段階的に解除することを決め、その第一段階として5月4日から一般人の散歩やランニングとともに、プロスポーツ選手の個人練習開始が正式に解禁されることになったのだ。
「選手を特別扱いするな」
これまでリーガ再開への歩みは、放映権料を満額受け取るために残り日程を是が非でも消化したいラ・リーガが先行し、慎重な政府がブレーキをかける形になっていた。
例えば、本来なら4月28日にはサッカー選手へのPCR検査が実施されるはずだった。ラ・リーガは1部と2部の全選手と全スタッフ用に3000の検査キットを自費で用意し、スタンバイしていた。
ところが、直前になって保健省がストップをかけた。現在、無症状の人に行き渡るほどの数のキットを確保していない国は、症状が出た人に限定してPCR検査を行っている。よって、選手たちは検査対象外だ、という判断だった。
感染爆発阻止に失敗した政府への批判が高まっている今、「サッカー選手を特別扱いするな」という世論に気を使ったこともあるのだろう。この流れで、保健相が「夏までにリーガを再開できる、と今言うのは軽率だ」と発言。これが少々誇張されて、日本で「スペイン、夏までリーグ再開は困難か。保健相が言及」という情報が流れたわけだ。
PCR検査実施には反対の声も…
とはいえ、政府は先走りを警戒していただけで、リーガ再開に反対していたわけでは決してない。
稼ぐ金額的にも作り出す雇用的にも、リーガ・エスパニョーラはスペインが手放すことができないビッグビジネスである。それを知り尽くしている政府は、娯楽を欲する人々の声に後押しされたという体裁で態度をコロッと変えるはずだ、と見ていたが、その通りになった。早ければ練習再開の前に、遅くとも当日の5月4日に、PCR検査を実施するはずだ。
政府のお墨付きが出たことで、テクニカルスタッフや選手たちの懸念も収まるに違いない。医療従事者にすらキットが十分に行き渡らない状況で、一斉検査を行うことには内部からも異論が出ていた。
1カ月ほど前、やはりラ・リーガが検査を計画した際には、バジャドリーとエイバルが「キットを医療従事者に譲る」と発表、結局見送られた経緯がある。
今回もラシンの選手たちはテスト拒否を表明。ラジョ・バジェカーノのパコ・へメス監督は「命を懸けている人ではなく、サッカー人がテストをするのは分別がなさ過ぎる」と批判していた。
Photo: Getty Images
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。