ブラジルでも感染拡大のペースが加速している新型コロナウイルス。全国27州のうち12州が非常事態の宣言下にあり、不要不急の外出が規制される日々が続く中、貧困層を中心に、生計が成り立たない家庭が急増している。
それに対し、多くのブラジル人サッカー選手たちが、国内外のどこにいようと積極的な寄付を行い、市民の暮らしを支えようとしている。
市民を支えるサッカー選手たち
本人から公表されてはいないものの、ネイマール(パリ・サンジェルマン)はユニセフと協力し、新型コロナによる貧困救済のための基金に合計500万レアル(約1億2500万円)を寄付し、ニュースになった。
また、ブラジル国内では現物の寄付も多い。例えば、フィリペ・コウチーニョ(バイエルン)は古巣バスコ・ダ・ガマのホームスタジアムに近いスラムの住民に向けて、食料品や衛生用品など全部で20トン分を寄付した。
配給を受けた家庭からは「今日、家にあった最後の米を炊いて、明日のための食糧を買うお金がなく、子供たちに食べさせることができなくなるところだった。本当にありがたい」という言葉も聞かれた。
多方面からの協力を受け、地道な活動
そんな中、自ら体を張った活動をしているのがドゥンガだ。元ジュビロ磐田、元ブラジル代表の選手であり、代表監督でもあった彼が今、マスクと手袋を身に付け、野菜や食糧の詰まった木箱や、衛生用品の詰まった段ボールを運んでいる。
ドゥンガは、地元リオグランデ・ド・スル州において日頃から厳しい資金で運営し、さらにこの新型コロナの影響で苦しくなっている多くの施設に、すぐに必要となるものを届けることにしたのだ。例えば、経済的に恵まれない家庭に生まれ、施設で暮らす子供たちが明日からも食べていけるように、食材を届けている。
子供たちにスポーツを通した市民教育をするための活動や、老人ホームの慰問など様々な慈善活動を日常的に行っているドゥンガは、州内にある施設のそれぞれの状況を良く知っている。
さらに、食料などを寄付してくれる人や企業も、その回収や施設に届ける作業をする人も、ほとんどがドゥンガとその友人や、地元の企業、スーパーマーケット、商店、サッカー仲間たちだ。その手弁当な活動によって、これまでに10トン以上の食料を集めて様々な施設に届けることができた。活動は現在も続いている。
ドゥンガはその協力者たちを「僕のセレソン」と呼んでいる。協力者を公表する時は「スタメン発表」。協力者の中には、寄付するものを担ぐところから「出場」する人もいる。同じ地元の元選手チンガや、インテルナシオナウでプレーする現役選手のアンドレス・ダレッサンドロのような助っ人たちもいる。
「僕らは決して負けることのないチーム」
ドゥンガ本人から、今回の活動を紹介するためのビデオや写真が届いた。そのビデオの中で、彼はこう語りかける。
「みんな、挑戦する準備はいいか? 人生とは挑戦の連続なんだ。そして、その挑戦によって素晴らしいことができる。できると想像すらしなかったことがね」
「今、人生が僕らに再び挑戦のチャンスをくれた。それは団結すること、人間らしくあること、より良い人間になること。その挑戦において、素晴らしい人間になるというのは、必要とされる時に手助けができるということだ。言いたいのは、君たちみんなが挑戦者だということだ」
ドゥンガが活動を紹介するのは、その自分の活動への寄付や参加を求めるためではなく、今、世界中が新型コロナによって苦しんでいる中、自分にできることをしよう、と呼び掛けるためだ。
ドゥンガが暮らすリオグランデ・ド・スル州でも、全国で10番目に多い感染者数が確認され、非常事態宣言が出ている。彼自身「僕は家にいることもできるが、できない人はどうするんだ?」と語り、施設への寄付に限らず、軍警察による貧しい住民への炊き出しの現場に材料を届けたり、市のゴミ収集車の職員に食料品セットを渡したりといった活動をするとともに、そうした家にいられない職業の人たちへの感謝を語っている。
誰にも感染の恐怖があり、経済的な打撃がある。様々な職業があり、一人ひとりの状況も、生きる環境も違う。だからこそ、ドゥンガは語り掛ける。
「僕はこの戦いを続けていくつもりだ。僕らは決して負けることのないチームなんだ。そして、君だって多くの人たちの人生を手助けできる。自分の役割を果たそう。君のチームを作る。それが挑戦だ」
そして、その挑戦のために団結しようとメッセージを送るのだ。
Photos: Dunga, Getty Images
Profile
藤原 清美
2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。