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オリバー・カーンが語るバイエルン。“王者”が担う高貴な義務

2020.04.09

 新型コロナウイルス(COVID-19)感染が拡大する中、ブンデスリーガは5月中旬の再開に向けて準備を進めている。今週からは各クラブが各州の担当機関の指示に従い、条件を守った上で少人数でのトレーニングを練習場で開始している。以前触れたように、最低限テレビ放映権料の収入を確保するため、リーグもできる限りの可能性を探っているところだ。

 今年1月からバイエルンの経営陣に正式に参画したオリバー・カーンは、現在の状況について4月1日の『シュポルトビルト』のインタビューに答えた。ブンデスリーガの1部、2部において、数カ月後の給与が払えるかどうかも分からないクラブが出てくる中、カーンはこのインタビューでバイエルンが自他ともに“王者”と呼ばれるゆえんを垣間見せた。

危機は強くなるためのチャンス

 「選手としても、経営者としてもいくつも危機を経験したが、今回のような新型コロナウイルスによる危機は、全く初めての状況だ」。カーンは現在の状況をそう説明する。だが、今の状況は発展するための好機でもあるという。ドイツ代表とバイエルンの正GKとして一時代を築いた“巨人”はその理由をこう説明する。

 「危機は現行のシステムが持つ特性、弱点、そして脆弱性を露呈させる。だからこそ、そういったショックに対してより強化され、強い耐性を備えられるチャンスが生まれる」

 バイエルンは欧州でも屈指の安定した経営基盤を持っているが、それでもクラブの経営陣や選手たちは、それぞれ20%の減給をせざるを得なかった。

 だが、これは結果的にクラブの団結を内外に示す作用をもたらした。「自分の雇用主、クラブ、そして同じクラブで働くスタッフたちが、自分にとって重要な存在なのだ」という強いメッセージになったとカーンは振り返る。

 しかし、バイエルンが気にかけるのは自分たちのことばかりではない。カーンは「自分たちのことだけを見ているわけではない。対戦相手がいて初めてプレーをできるということも分かっている。この責任を、我々バイエルンは引き受けたいのだ」と話す。

苦しむクラブを積極的にサポート

 圧倒的な資金力と強さで敵も多いバイエルンだが、ドイツを代表するクラブとしての役割も引き受けている。バイエルンはこれまでも行動でそれを示してきた。1990年代後半に入って各クラブ間の経済格差が大きくなり始めると、バイエルンは積極的に経営危機にあえぐクラブを助けてきたのだ。

 バイエルンはこれまで、ザンクト・パウリ(2003年)やウニオン・ベルリン(1997年、2004年)、ダルムシュタット(2008年)、アーヘン(2013年)、ハンザ・ロストック(2013年)、ディナモ・ドレスデン(2015年)、キッカーズ・オッフェンバッハ(2017年)、カイザースラウテルン(2019年)などのスタジアムに出向いてフレンドリーマッチを開催してきた。

 大人気クラブのバイエルンが来るとあって、スタジアムは満席。バイエルンはその興行収入を受け取らず、ホームクラブが全額受け取れるように働きかけた。各クラブは、日本円にしておよそ1000万円から2億円の臨時収入得ることができた。

 今でこそ信じられないが、2005年には経営難に苦しんでいたドルトムントに200万ユーロ(当時約2億7000万円)を融資している。ドルトムントは数カ月分の給与をこの資金で賄い、窮地を脱した。

 その後、2008年にユルゲン・クロップがやって来て、将来性のある選手を比較的安価のうちに獲得し、高額で売却する現在のビジネスプランが確立。その後の成功は誰もが知るところだ。

 ドイツ“王者”と呼ばれるバイエルンには、“王者”に伴うノブレス・オブリージュ(高貴な義務)を引き受けるだけの気概がある。14年間に渡ってバイエルンに在籍し、守護神としてチームを支えてきたカーンの言葉からは、バイエルンというクラブの在り方がにじみ出ている。


Photo: Getty Images

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Profile

鈴木 達朗

宮城県出身、2006年よりドイツ在住。2008年、ベルリンでドイツ文学修士過程中に当時プレーしていたクラブから頼まれてサッカーコーチに。卒業後は縁あってスポーツ取材、記事執筆の世界へ進出。運と周囲の人々のおかげで現在まで活動を続ける。ベルリンを拠点に、ピッチ内外の現場で活動する人間として先行事例になりそうな情報を共有することを心がけている。footballista読者の発想のヒントになれば幸いです。

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