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誇りを持ってマラケシュへ旅立った理由

2020.04.07

ウォッチング・グアルディオラ特別公開 #4

戦術、指導、分析、会話、移籍、参謀、料理……ペップ・グアルディオラのAll or Nothingな仕事術を密着取材で明かす『ペップ・シティ スーパーチームの設計図』が3月31日に発売となった。その刊行を記念して、共著者ル・マルティンが雑誌『footballista』で連載中の『ウォッチング・グアルディオラ』から、選りすぐりのエピソードを特別公開。

#4は、無冠の危機に立たされたにもかかわらず、チームに対し満足感を見せたペップ。その理由とは?

 マンチェスター・シティはグアルディオラの言う「1番難しい1週間」を終えた。FAカップでミドルズブラ、CLでモナコ、プレミアリーグでリバプールと対戦した後の彼の様子は、1勝しかできずCL敗退、リバプールにホームで勝ち点2を奪われたにしては、普通じゃないほど多幸感に包まれていた。喜んでいたのは夫人と一緒にモロッコへ4日間のミニバケーションに出かけゴルフとリラックスの日々を過ごすから、ではなかった。

 地獄の1週間を経て、FAカップ準決勝でアーセナルとの対戦が決まったものの、監督キャリアで初めてCL決勝ラウンド1回戦で敗退し、リバプールとは引き分けリーグ3位のまま。リバプール戦はまた見た光景だった。試合を支配しチャンスを作ったもののカウンターで負けかけた。が、にもかかわらずペップは満足げだった。

 芝生の上では選手たちを祝福しクロップ監督と相手選手をも抱擁。ロッカールームに入っても出会う者すべてを抱擁した。そこでマッサージを受けて横になっているキャプテン、ダビド・シルバを見つけると近づいて彼の頭をつかんで2秒間ほど揺さぶり、「凄いぞダビド、愛している!」と叫んだ。シルバはこの試合、右サイドから足にボールがくっつくドリブルでチームを引っ張った。「最高の選手だけができるプレーだ。良い選手だとは知っていたがシャビとイニエスタのミックスのようだった。メッシと同レベルでゴールが少ないだけだ。信じられない。今イングランドで最高の選手だ」と叫ぶのが聞こえた。

2017年3月のリバプール戦後、審判団と会話を交わすグアルディオラ

「凄いぞダビド、愛している!」

 祝福の嵐の後、印象的な会見を開いた。月間最優秀監督に選ばれたことについて「コンテは棚がトロフィーで一杯だから別の者にしたのだろう」と笑わせた後、ストーンズを褒めちぎった。「この会見場の全員を合わせた以上の玉を持っている。私のチームでCBをするのは簡単ではない」

 会見後は廊下で待っていた元オアシスのノエル・ギャラガーを抱き締め、彼の息子たちに「君たちは満足しているかい? 君らが満足なら私は満足だ」と話しかけた。ここ20年間のブリティッシュポップで最も重要なミュージシャンの息子たちはうなずき、FAカップは優勝できるよ、と励ました。

 ペップは今後の道のりが簡単ではないことは知っている。チームには足りないものがたくさんある。だが、モナコに退けられた後のリバプール戦でチームが立ち上がったことが、グアルディオラを喜ばせたのだった。彼にとって勝利よりも大事なことがあり、フィーリングが道を開いてくれることもある。CLは断念せざるを得ずプレミアリーグ制覇もほぼ不可能で最悪の場合、キャリア初の無冠に終わるかもれしれない。だが同時に、率いているチームはクオリティ不足で、勝者のスピリットに欠け、ゴール前での決定力も乏しい。シーズンのスタート時から比べると良いチームになったことが、1つの勝利なのである。

 「私にはタイトルが求められる。なぜなら自分自身の過去の奴隷であるからだ。だが私は決してタイトル獲得を約束したことはない。努力と仕事は約束する。だから私の意識は落ち着いている」と半月前に発言していた。グアルディオラがタイトル獲得を約束していないことと、特にゴールゲッターに大金をはたけばタイトルに手が届くことをシェイク・マンスール会長は知っているはずだ。

「私が約束するのは仕事だけ」

 時計の針を戻してみよう。

 グアルディオラが多幸感に包まれていたのは3月19日のこと。その4日前の21時半、モナコのスタッド・ルイ・ドゥのアウェイロッカールームでの彼は何も満足していなかった。

 彼の口からはガマガエルとマムシが飛び出し、選手たちは激しく叱咤されていた。前半は酷いもので第1レグの2点リード(5-3)を吐き出し敗退の危機(2-0)にあった。彼が監督となって初めてシュート0本という体たらく。その場に居た者によるとペップは悪魔に憑りつかれたように悪態をついたという。

 「クン(アグエロ)が走らないとかチームのために犠牲にならないと文句を言う者がいたが、お前ら全員を合わせたよりも良くやった」というフレーズまで飛び出した。

 チームはリアクションしモナコを追い詰めサネがゴールを決めた。しかし喜びもつかの間、モナコは後半唯一のチャンスを生かして準々決勝進出を決めた。リバプールとエティハドスタジアムで引き分けたのは、それからわずか4日後のことだったのだ。

 3月21日、ペップは幸せにミニバケーションに出かけた。

 「タイトルよりも大事なことがある。ミュンヘンではCLを勝てなかったから挫折と言われたが、リーグを3度、ドイツカップを2度制覇した。良い仕事ができた。私が約束するのは仕事だけだ」

 ペップは8時に家を出て子供を学校に送り、練習を終えて帰って来ると夕食が用意されていた。子供たちは父親が働き者であることを誇りに思っており、メッシが父を大いに助けたことを知っているが、父がタイトルを獲ってきたのは働き者だからということも知っている。左官工だった父を見てハードワーカーとして育ったペップは、選手のハードワークを勝利よりも高く評価する。大きな挫折の後、選手が懸命に努力する姿を確認して、安心して小さな休息に旅立てたのだった。

Photos: Getty Images

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ジョセップ・グアルディオラマンチェスター・シティ

Profile

ル マルティン

高名なスペイン人記者。1980年代からラ・リーガと母国代表をテーマに執筆活動に勤しむ。2001年出版の『La Meva Gent, El Meu Futbol(私の人、私のサッカー)』は、ペップ・グアルディオラ自身との共著。マンチェスターとバルセロナを行き来しながら、シティのグアルディオラ体制を追う。2016年から『footballista』で「ウォッチング・グアルディオラ」を連載中。

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