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スタイルはプレーした時代ゆえ。チームを勝たせるGKカーンの真骨頂

2020.04.01

現代戦術で読み解くレジェンドの凄み#8

過去から現在に至るまで、サッカーの歴史を作り上げてきたレジェンドたち。観る者の想像を凌駕するプレーで記憶に刻まれる名手の凄みを、日々アップデートされる現代戦術の観点からあらためて読み解く。

第8回はオリバー・カーン。“ゲルマン魂”という言葉そのものと言っても過言でないメンタリティが印象深い名GKを、プレーしていた時代背景も考慮しながら考察する。

DER TITAN

 オリバー・カーンのニックネームは“Der Titan”。ギリシャ神話の巨人族タイタンだ。身長188cmはGKとしては巨人とは言えないが、ゴール前に仁王立ちして次々とシュートを防ぎまくる迫力と不死身感はタイタンと呼ぶに相応しかった。

 GKはスラリとした長身で手足が長いタイプか、がっちりとした巌のようなタフガイに分かれるが、カーンは後者の典型だろう。

 バイエルンでカーンを指導したゼップ・マイヤーはスラリとした手足の長いGKだった。1974年W杯の優勝メンバーにして1970年代の名GKでもあり、“山猫”と呼ばれていた。ドイツ代表でカーンの先輩だったボド・イルクナーもこのタイプ。カーンと激しくポジションを争ったイェンス・レーマンもそうだ。一方、バイエルンとドイツ代表でカーンの後輩に当たるマヌエル・ノイアーはガチムチ系である。

 ただ、カーンとノイアーには大きな違いが1つある。ノイアーはペナルティエリアを飛び出してリベロのようなプレーをするが、カーンはそういうスタイルではなかった。これは2人の個性の違いではなく、プレーした時代の違いだ。

2007年、シャルケ時代でまだあどけなさの残るノイアー(右)とカーン

 カーンがプレーしていた1980年代後半から2008年の間に、GKはバックパスを手で処理することができなくなっている(1992年)。ただ、GKがビルドアップに加わる、あるいはペナルティエリアから大きく離れてDFのカバーをするのは、カーンの時代にはまだ一般には行われていなかった。

 だからといって、カーンがいわゆる「ライン・キーパー」だったかというとそれも違う。イルクナーはまさにそういうタイプだったが、カーンはもっとアグレッシブだった。ゴールライン上でシュートを防ぐだけでなく、前進して至近距離のシュートを防ぐのを得意としていた。スピードとパワーを兼ね備え、決断力と勇気が図抜けている。UEFAのベストGK賞を4度も受賞していて、もしカーンが現在でもプレーしていればノイアーのようにより広いエリアをカバーしていたに違いない。

 1969年6月15日生まれ、祖父母はラトビア人で父親もラトビアで生まれている。カールスルーエのユースチームでプレーを始めた時はフィールドプレーヤーだった。トップチームに昇格したのが18歳の時。カールスルーエでレギュラーポジションを獲るまでには3年かかった。決して天才プレーヤーではなく、カーンは努力の人なのだ。

天国と地獄

 1993-94シーズンのUEFAカップでベスト4入りして注目を集め、1994-95にバイエルンに移籍している。移籍金は当時GKとしては最高額の460万マルクだった。バイエルンではブンデスリーガ優勝8回、DFBポカール優勝6回、UEFAカップ(現EL)、CLとタイトルを獲りまくった。ドイツ代表でも4度W杯に出場し、2002年は大会MVPに選出されている。この大会の7試合で喫した失点はアイルランド戦の1点と、ブラジルとの決勝での2点のみ。枠内セーブ率93%という驚異的な活躍ぶりだった。

自身ラストシーズンとなった07-08はブンデスリーガ(写真)とDFBポカールの国内2冠を制覇。タイトルに彩られたキャリアを有終の美で締めくくった

 シュートストッパーとしてのカーンの真骨頂は俊敏性と決断力である。

 1対1になる状況で、相手との間合いを詰めるのが速い。相手がシュート態勢に入った時には、すでに距離を詰められていてコースが限定されている。同時に、カーンはシュートの瞬間には必ず停止していて、最後までボールから目を逸らしていない。コースはほとんど消しているので、ボールはカーンの体のすぐそばを通る。その時の反応の速さ、足でも体の一部でも、どこかに当てて防いでしまう能力は格別だった。

 瞬間的な手の使い方も素晴らしい。

 シュートやハイクロスを弾く時に、ポロリと正面にこぼしてしまうミスがほとんどない。クロスに対しては手のひらの角度をとっさに変えて相手のいない場所へボールを落とす。野球の逆シングルのように、瞬時に手の平を向ける方向を変える手さばきが美しい。シュートをゴールから角度のない場所へ弾くか、CKに逃げるか、パンチかキャッチかなど、手の作り方も柔軟に使い分けている。勇猛さやパワーもさることながら、技術的に非常に洗練されているのだ。

“逆シングル”でボールをはじき出すカーン。優れた判断と確かな技術が類稀なシュートストップの秘訣だった

 それだけに2002年W杯決勝での2失点は悔いが残る。リバウドのミドルシュートを珍しくゴール正面にこぼしてしまった。試合中に手首を痛めていた影響もあったのかもしれない。こぼれ球をロナウドに決められている。試合後、ゴールポストを背に呆然と座り込んでいた姿はカーンらしくなかった。

悲願の世界一を逃し打ちひしがれるカーン

 しかし、彼がいなければドイツは到底決勝にはたどり着けなかった。ドイツはこれまでも切れ目なく名GKを輩出している。かなり凡庸なチームでも勝ち抜いている背景にはGKの存在がある。

 GKは1つのミスで世界一を逃すこともあれば、1人の力でファイナルまでチームを引っ張っていくこともできる。天国と地獄を行き来するポジションであることを、この時のカーンは示していたと思う。

地震・雷・火事・カーン

 記者会見場に現れたヨハン・クライフ監督は開口一番、「ミランが負けたぞ」と言った。

 1995-96シーズンのUEFAカップで、ボルドーがミランを下していた。バルセロナを率いていたクライフ監督はその夜、セビージャと対戦していたのだが、他会場のジャイアントキリングを話題にして、会見を自分のペースに持っていった。ミランが敗れたのは、それだけ大きなニュースだった。

 ミランを破ったボルドーは若く、勢いにあふれていた。若きジネディーヌ・ジダン、クリストフ・デュガリー、ビセンテ・リザラズが躍動していた。ミランを呑み込んだ勢いでUEFAカップを獲るかもしれないという期待もあった。しかし、彼らの前にオリバー・カーンが立ちはだかる。

 UEFAカップはホーム&アウェイで行われる。バイエルンはホームで2-0、アウェイで1-3。フタを開けてみたらバイエルンの圧勝である。ボルドーは果敢に攻撃した。が、スタンドで見ていて正直ゴールが入る気はしなかった。ボルドーは何度もバイエルンのゴールに迫ったのだが、カーンの存在感と威圧感に気圧されているように見えた。

 カーンは単なる優秀なGKではなく、最後方から全軍を戦いに駆り立てるカリスマでもあった。

 「戦争の次に恐いのはオリバー・カーンだ」

 チームメイトがそう言っていたという。地震・雷・火事・カーンである。

 勝利への意欲と集中力は異常であり、100%どころか10万%の集中力をチームメイトに要求するような男だった。

気持ちを前面に押し出した振る舞いがチームメイトはもちろん観る者の心も揺さぶった

 トップクラス同士の試合、特に決勝で一方的な展開になることは少ない。ほとんどは、どちらが勝っても不思議ではない流れになる。そしてチャンスの数が同じぐらいなら、カーンのいる方が勝つ。ドイツ代表にせよ、バイエルンにせよ、カーンのいるチームに勝とうと思ったら、圧倒的な実力差でねじ伏せなければならない。入るはずのシュートの2、3本は確実にカーンが止めてしまうからだ。対戦相手は、試合の主導権を握る程度ではまったく十分ではなく、オリバー・カーンを倒さなければならない難題が待っていた。

 カーンがいなければ、ボルドーはUEFAカップを獲れていたかもしれない。2000-01のCL決勝では、PK戦でカーンがバレンシアのシュート3本を阻止している。その2年前のファイナルでは、マンチェスター・ユナイテッドが終了間際にCKからの連続ゴールで奇跡の逆転勝利を収めていた。

 違う言い方をすると、カーンのいるチームを下すには圧倒的なチーム力の差か、奇跡が必要なのだろう。

◯ ◯ ◯

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Photos: Bongarts/Getty Images, Getty Images

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Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。

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