ボルフスブルクが、ドイツ国内で最もイノベーティブなスタジアム見学ツアーを開始したようだ。VRゴーグルを活用した、現実拡張型のスタジアム見学ツアーが実施されるようになったのだ。2月26日の『シュポルトビルト』が伝えている。
選手目線で公式戦を体感
日本国内でも、すでにVRテクノロジーを駆使したスタジアムツアーが行われている。とはいえ、ブンデスリーガの試合が行われる1日、スタジアムでは何が起こっているのか、というのは、サッカーファンにとっては気になる部分でもある。
テレビや様々なメディアに上がってくる情報は、スタジアム内のプレス用のスペースや記者会見用の一室で行われた発言から作られる。どのような空間の中、選手はどのように対応するのか。試合中のハーフタイム、ロッカールームの雰囲気はどのようなものなのか。監督はどのようなことを話すのだろうか。
ボルフスブルクのスタジアムツアーでは、配布されたVRゴーグルを使いながら、ブンデスリーガの試合が行われる一日を辿ることができる。スタジアムツアー担当のカタリーナ・ヘンリクス氏は、「スタジアムを訪れるファンには本物の体験をしてほしい」と説明する。
通常、こういったビデオは、見せもの用に個別にセット撮りしたものや練習試合のものを使うことも多い。だが、“本物の体験”にこだわったボルフスブルクは、公式戦の丸一日を撮影し、VRの動画として活用したのだ。
「10ユーロの元は取れる」
試合前の選手入場を追体験し、試合中のカメラマンの視点を体感し、ロッカールームではスタッフと同じ目線で選手や監督の発言を聞き取る。ユニフォームを脱いだ選手が目の前を横切り、監督の話が始まるのを待つ。
オリバー・グラスナー監督は開口一番「我われは審判のジャッジとも戦わなければならない! あれは明らかにファウルだった!」と“共通の敵”として審判のジャッジをやり玉に挙げる。そうして選手たちの心境に理解を示した後で、戦術ボードを使って試合分析の振り返りや改善点を話し出す。ロッカールーム内での監督やスタッフのそうした仕事ぶりも体感できるのが、このスタジアムツアーの見どころのようだ。
メディアが立ち入りできない区域が多いため、プロチームの試合当日のスタジアムの様子は、画面越しでは一部しか見ることができない。『シュポルトビルト』誌はボルフスブルクのスタジアムツアーについて「入場料10ユーロ(約1200円)の元はしっかり取れる」と論じる。
Jリーグでも、鹿島アントラーズや松本山雅FC、ジュビロ磐田など、多くのクラブがすでにVRテクノロジーを駆使したスタジアムツアーを実施している。「ウチのクラブのスタジアムは、ここがスゴイ!」とアピールし合う“スタジアムクラスタ”の存在は、クラブやリーグの活性化を促すうえでさらに大きな役割を果たすことになりそうだ。
Photo: Getty Images
Profile
鈴木 達朗
宮城県出身、2006年よりドイツ在住。2008年、ベルリンでドイツ文学修士過程中に当時プレーしていたクラブから頼まれてサッカーコーチに。卒業後は縁あってスポーツ取材、記事執筆の世界へ進出。運と周囲の人々のおかげで現在まで活動を続ける。ベルリンを拠点に、ピッチ内外の現場で活動する人間として先行事例になりそうな情報を共有することを心がけている。footballista読者の発想のヒントになれば幸いです。