カバーニ、PSG200ゴール達成。努力の末、クラブ史に名を刻む
2月23日に行われたリーグ・アン第26節のパリ・サンジェルマンvsボルドー戦で、エディンソン・カバーニがPSGでの通算200ゴールを達成した。
2013年夏にPSGに加入したウルグアイ人FWは、2017-18シーズン、それまでズラタン・イブラヒモビッチが保持していたクラブの最多得点記録である156点を更新し、歴代トップスコアラーになった。そして在籍7シーズン目、298戦目のこの試合で、節目の200点に到達した。
試合後、ささやかなセレモニーが行われて記念のカップが手渡されると、カバーニは開口一番「ここにいる仲間たちがいなければ、これは実現できなかった」とチームメイトたちをねぎらった。
各方面が偉業達成を称賛
25分、アンヘル・ディ・マリアからの素晴らしいクロスを、ヘディングでゴールの右端に突き刺した瞬間、パルク・デ・プランスは盛大かつ温かい拍手に包まれた。メディア席でも拍手している記者が何人もいたが、それは“エル・マタドール(闘牛士)”ことカバーニが、いかにサポーターや周囲の人たちに愛され、尊敬されているかを表していた。
「うれしさで胸がいっぱいだ。これは自分がこれまでPSGで続けてきた挑戦の証。その過程には良い時も辛い時もあった。このクラブは自分に多くを与えてくれた。チームメイトやサポーターたちも自分を支えてくれた。ピッチに立ったら、彼らのために持てる物をすべて出し尽くす。それが彼らへの愛情を示す自分なりの方法だ」
試合後、カバーニはいつものソフトな語り口でそう話した。髪を振り乱してゴールに向かう試合中のワイルドな様子とは対照的に、普段の彼はPSGの選手の中でも際立って物腰が柔らかい。
ピッチの上では常に献身的に、チームのために尽くす。サポーターは彼のそんな謙虚な姿が大好きだ。カバーニの200ゴールを報じた記事に寄せられたコメントには、「自分はPSGファンではないが、カバーニのことは一選手として本当に尊敬している」という書き込みがたくさん見られた。中には宿敵マルセイユサポーターによるコメントもあった。
苦難を乗り越え、常に全力で戦う
加入当初、チームの得点源はイブラヒモビッチで、カバーニは彼を生かすべく、本来の持ち場ではないサイドでのプレーを受け入れなければならなかった。
16-17シーズンにイブラが去ると、年間49得点を挙げてトップスコアラーに君臨したが、その翌シーズンにはネイマールとキリアン・ムバッペがそろって加入。3人の頭文字を取って“MCN”なるトリオを形成した。ネイマールとの確執も噂されたが、成熟した人格者であるカバーニがネイマールと対立するようなことは、実際にはなかった。
昨シーズン後半からは負傷がちになり、今シーズン、インテルからマウロ・イカルディが加わると、カバーニがケガで欠場していたこともあり、先発の座は新入りに奪われた。
イカルディ、ディ・マリア、ネイマール、ムバッペによる“ファンタスティック・フォー”がゴールを量産すると、ケガから回復した後もベンチを温める試合が続き、この冬の移籍市場では移籍の意思を表明。アトレティコ・マドリーやチェルシーとの交渉が進められた。
しかしPSGがオファーを受け入れずに残留が決定すると、カバーニは心機一転、チームの勝利のために全力で取り組んでいる。ボルドー戦後のインタビューである記者が「移籍の話もあったが、残留が決まった後はここで100%の力を尽くしていくつもりか」という質問を投げた時、カバーニは「もちろんだ」と繰り返しながら、その記者に強烈な視線を返していたのが印象的だった。
マルセイユ戦で決めた直接FK
200ゴールの中で最も思い出深いゴールはどれかと聞かれると、「あまりにたくさんありすぎて選ぶのは難しい」と熟考した後、「2-2で引き分けたマルセイユ戦でのゴール」を挙げた。
その一戦はよく覚えている――。
2017年10月のリーグ・アン第10節。前半は1-1。78分にフロリアン・トーバンが追加点を挙げてマルセイユがリードを奪うと、ベロドロームには地鳴りのような歓声が響いた。その前年は同じ場所で1-5とコテンパンにされていたから、マルセイユは雪辱を晴らしたい気持ちでいっぱいだったのだ。
ところが、勝利まであと数秒に迫ったアディショナルタイム、カバーニがファウルを誘ってFKをゲット。それを自ら蹴って、直接ゴールに叩き込んだ。
カバーニの得点は大半がペナルティエリア内からで、エリア外からの得点は200本中13本しかない。さらに直接FKからのゴールは珍しく、これまで3回のみ。これはその希少な1回だった。試合は2-2で終了。PSGは敗戦を免れた。
マルセイユのDF酒井宏樹の試合後の第一声は「今日は寝られない」だった。
「僕のキャリアで初めて、メガクラブに勝てる5秒前だったので……。後半アディショナルタイムという時間帯に、あの場所でファウルを取れる。あれこそがトッププレーヤーの証ですね……」
酒井は、アディショナルタイムに突入したあの時間帯でのカバーニのプレーをひたすら賞賛した。
「彼は完全にファウルをもらいに行っていた。守備の人数は足りていたんですが、それも見ていたと思います。シュートチャンスというより、あそこでファウルを取ることに専念していたと思う。悔しいけど、認めざるを得ないぐらい、能力というか経験の差が出た……」
「やるべきことは努力だけ」
「『どんな手を使ってでも』というのが分かる試合だった。自分が持っている100%の力に、さらにプラスアルファを出したのが今日のカバーニだった」
この酒井の言葉には、カバーニの、ゴールゲッター以上の能力が象徴されている。
カバーニは、天才肌というより努力型のプレーヤーだ。本人もそれを自覚しているし、周りもそんな彼のひたむきな姿に惹かれる。
「やるべきことは努力だけ。ひたすら努力を重ねること。それがチャンスを与えてくれる。これまでの6年半、いろいろなことがあった。まだ終わっていないが、このクラブの歴史に少しでも何かを刻むことができたなら幸せだ。クラブやチームメイト、サポーターたちとの絆は、一朝一夕ではなく、長い時間をかけて育まれていったもの。それは自分の心の中にもいつまでも残り続ける」
PSGとの契約は、今シーズン終了までだ。
その後、彼がどんな選択するのかは分からないが、ウルグアイ人ストライカーはPSGの歴史、そしてサポーターの思い出の中に、間違いなくその足跡を刻んだ。
Photos: Yukiko Ogawa, Getty Images
Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。