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闘える集団へ FC東京・長谷川健太監督インタビュー

2020.02.21

2月21日に開幕する2020Jリーグ。昨シーズン、惜しくも優勝を逃したFC東京は新加入選手を迎え入れ、新しいスタイルに挑戦しようとしている。就任3年目を迎える長谷川健太監督が今シーズンへの想いを語った。

就任3年目の挑戦


――AFCチャンピオンズリーグ(ACL)の蔚山現代戦では、さっそく今季のウリである3トップが迫力のある攻撃を繰り出していましたね。まるでリバプールを思わせるインテンシティ、スピード感がありました。

 「ありがとうございます。うちは(横浜)F・マリノスのように3トップをワイドに開かせるのではなく、3人が近くでプレーして連係しながら攻めたいと思っています。昨シーズンは2トップでしたが、2トップにもう1枚が絡んだ時にチャンスが作れていた。タケ(久保建英)がいた頃は自然とそうした形になっていたんですが、タケが移籍してからは、ディエゴ(・オリヴェイラ)と(永井)謙佑の2トップ+1の形がなかなか作り出せなかった。だから今年は、3トップにして必然的に3人が絡むような形を作ったほうがいいんじゃないかと。それで、攻撃により厚みの出るシステム(4-3-3)にチャレンジしています」


――長谷川監督は清水エスパルス時代、ガンバ大阪時代、いずれも守備の整備からチーム作りをスタートさせ、シーズンを重ねていくなかで攻撃的なスタイルへと舵を傾けていった印象があります。清水でのラストシーズンとなった2010年の4-3-3も非常に攻撃的でした。だから就任3年目の今季、攻撃的なスタイルにトライするのは、単に得点力不足を解消するためではなく、就任当初から考えていらしたことではないか、と想像しています。

 「なるほど(笑)。まあ、ガンバ時代は2トップタイプの選手が多かったので3トップにはチャレンジしませんでしたが、中盤の形をひし形に変えたりだとか」


――遠藤保仁選手をアンカーにしたり、トップ下にしたりしていましたよね。

 「ヤットをどう生かすのかは、ガンバ時代のテーマのひとつでしたから。東京に来て、ディエゴと謙佑にもう1枚必要だということは、1年目から感じていて。昨年はタケが成長してきたので4-4-2で戦いましたけど、今年はより上に行くために、選手を代えるだけじゃなく、システムも変えようと。今のヨーロッパのトレンドも取り入れながらチームを作っていきたいと考えています」


――長谷川監督は2年前に東京の監督に就任されましたが、それまでの東京は日本代表クラスの選手が揃いながら、勝負弱いところがありました。就任されて、まず何を変えなければならないと思いましたか?

 「競争がなかったんじゃないかなと。実績のある選手が多くいて、ポジションが保証されているようなところがあった。だから、若い選手やこれまで試合に出られていない選手が『頑張るぞ』と一念発起できるような状況を作れば、東京は変われるんじゃないかと。能力の高い若手が多いのに、ちょっと諦めてしまっているようなところを感じるところがあり、いや、そうじゃないよと。頑張れば、結果を残せば、試合に出られるんだぞ、というチーム作りをしたら、自然と活性化してきたんです」


――チームマネジメントの面で言うと、森重真人選手が「負けたあとの言葉の掛け方、勝ったあとの引き締め方がうまい」と言っていました。選手へのアプローチの仕方で意識していることは?

「ガンバ時代は、試合後ひと言も話してないんですよ(笑)。でも、東京は試合後のロッカールームで監督が話すスタイルでやってきたようで、選手側が待っている雰囲気があった。それで、話すようになって。本来は、試合直後にはあまり喋りたくないんです。映像も見てないし、感情的になりやすいので。それに、昨年は選手たちが本当に一生懸命やってくれたので、基本的にはプラスのことしか言ってないです。ガンバ時代には、闘えなかった試合のあと、激昂したことがありましたが(笑)、東京に来てからはないと思いますよ」


――でも、若い選手の中には長谷川監督のことを「怖い」と言う選手もいますよ。

 「いやいや、まったく怖くないでしょう(笑)。優しくアドバイスしますから。たぶん、『あの人は怖い』という噂がひとり歩きしているんじゃないですか。それで、優しく言っても、何か裏があるんじゃないか、と思われているんじゃないかと(笑)」


――昨年、リーグ優勝にあと一歩のところまで迫りながら、届きませんでした。その要因を、得点力不足以外でどこに見出していますか?

 「監督の責任ですよ。選手は頑張って目標にしていた勝点を重ねてくれましたから。例年、65プラス、マイナス5が優勝のラインだぞ、というのは選手たちに伝えていて、昨年は64を取ってくれた。あと勝点2、3上積みできていれば、と思って振り返ってみると、例えば浦和レッズ戦(5節・1-1)で、最後の最後に同点に追いつかれてしまった。あの試合では私が残りの交代枠2つを使い切れなくて」


――覚えています。試合後の会見で「クローザーの選手をまだ見つけられていない」「私自身に甘さがあった」とおっしゃっていました。

 「そう。あの試合で勝点2を失った結果、シーズン終盤にF・マリノスを『行けるんじゃないか』と勢いづかせてしまった。勝点3を獲得していれば、最終節でF・マリノスと、我々が優位な状況で戦えたわけです。だから、自分の責任だと思っています」

昨シーズンを振り返る長谷川健太監督

2020年に期待する若手選手


――「3年ひと区切り」と言われますが、清水時代は15位、4位と来て4位でした。ガンバ時代はJ2優勝、3冠と来て、チャンピオンシップ準優勝と天皇杯優勝。東京での3年目を右肩上がりのシーズンにするためには何が必要でしょう?

 「それこそ、システム変更です。昨年2位だったので、普通に考えれば、システム変更なんてする必要がない。昨年夏にタケと(チャン・)ヒョンスが移籍したので、そのポジションの選手を補強できれば、それでプラスになります。でも、それではチャレンジじゃなくて、姿勢としては守りです。昨年、選手は本当に頑張ってくれたから、今年は我々(コーチングスタッフ)も攻めないと、右肩上がりの順位を残せない。そもそも、そう考え始めたのは昨年の11月くらいでした。その時点で残り数試合だったので、さすがに変えることはできませんでしたが、『来季はチャレンジしよう』と思っていたんです」


――昨季終盤にはすでに。

 「考えていたことをオフになってコーチングスタッフと話し合ったうえで、4-3-3に見合う選手の獲得を強化部にオーダーしました」


――となると、今季の補強に関しては、及第点でしょうか?

 「ええ。強化部が頑張ってくれました」


――ガンバ時代のACLではベスト4まで勝ち進んだこともあれば、グループステージ敗退を喫した経験もありますが、ACLを勝ち抜くポイントは?

 「選手を見極めながら戦っていけるかどうかだと思います。どこまで過密になっていくのか現状では分からない部分もありますが、選手の疲弊具合を見ながら、より良い状態の選手がいるなら、積極的に入れ替えていくことも考えたい。それを可能とするだけの選手層はあると思いますから」


――今年は「#2020年の主役は誰だ」というハッシュタグをキャッチフレーズに用いてシーズン開幕を盛り上げる動きがあります。特に若い選手にスポットを当てていますが、東京の若手についてはどう見ていますか?

 「大卒のルーキーは3人(安部柊斗、中村帆高、紺野和也)とも即戦力なので、さらに良い競争が生まれそうだなと。(FC東京)U-18から昇格した(バングーナガンデ)佳史扶も、木村誠二も、(野澤大志)ブランドンも、すでにU-23でプレーしていますから、今のレギュラーメンバーを脅かす選手たちが入ってきて楽しみです」


――渡辺剛選手や田川亨介選手、波多野豪選手は東京オリンピックを狙える世代です。

 「彼らがメンバーに入るかどうかは森保(一)監督が決めることですからね(笑)。ただ、自チームで試合に出られなければ、日本代表には選んでもらえないでしょう。亨介はディエゴ、アダイウトン、レアンドロ、謙佑との勝負になる。アタッカーでは紺野も良いですし、原大智も頑張っている。さらにナ・サンホとか、(宮崎)幾笑とか。幾笑は昨年、ケガで出遅れましたけど、今年は非常にいいですよ」


――前線の選手層が本当に厚くなりましたね。

 「それも3トップにチャレンジする理由のひとつです。剛も(ジョアン・)オマリが入ってきたので、ポジションが保証されているわけではない。そこでしっかり定位置を掴めるかどうか。豪もセカンドGKのポジションを争いながら、トップデビューを狙わないと。ACLで起用した安部柊斗も東京五輪世代なので、うちでポジションを取れば、森保監督は最後に選んでくれるかもしれない。すべては彼ら次第なので、まずは東京でしっかりプレーして、ひとりでも多くの選手がオリンピックに出てほしいと思います」


――開幕戦の相手が清水で、ホーム初戦の相手がF・マリノスになりました。いずれも長谷川監督の古巣です。

 「清水は(横浜FMの)ポステコグルー監督のヘッドコーチだった方が監督になって、同じようなスタイルを志向すると思うので、そういう相手にしっかり勝って成長に繋げ、F・マリノス戦を迎えたいと思います。ただその前に、ACLのパース・ローリー戦がある。まずは目の前の試合に集中したいと思います」


――では、最後に。長谷川監督の思う「タイトルを獲れるチーム」とは、ずばり、どういう集団ですか?

 「闘える集団です」


――では、東京はその集団に近づいてきているのでは?

 「でも、34試合闘えないとダメなんですよ。追い込まれたから闘うとか、この1試合はすごく闘えたけど、この試合ではダメでした、ではなくて。どの試合でも闘えるチームになっていかないと勝てないと思います。たしかに東京は闘える集団になってきましたので、今シーズン、それをどれだけ維持できるか、さらに上積みできるかだと思っています」

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Photos: Koichi Tamari

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FC東京J1リーグ長谷川健太

Profile

飯尾 篤史

大学卒業後、編集プロダクションを経て、『週刊サッカーダイジェスト』の編集記者に。2012年からフリーランスに転身し、W杯やオリンピックをはじめ、国内外のサッカーシーンを中心に精力的な取材活動を続けている。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』などがある。

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