スペインの3部(実質4部)のロルカFCが、フットボール・マネージメントゲームを現実化させて話題になっている。これはスマートフォンのアプリを利用してチームのシステムや先発メンバーを決めて投票し、最も得票数の多かった並びと顔ぶれで実際に選手がプレーしてくれる、というものだ。
監督の役割は完全な裏方
試合はアプリを通じて観戦でき、リアルタイムでウォーミングアップ中の選手名が表示される。交代させたい時はその選手と交代選手を決めて投票。これも最多得票の選手がアウト/インすることになる。
先発メンバー選びの参考にするために、練習の模様は動画でチェックすることができ、招集メンバーが発表される際には監督が作成したフィジカルコンディション等の数値化されたデータがアップされ、それを参考に先発や控えを決めることができる。操作感覚としては非常にゲームに近い仕様だが、これ、現実のことなのである。
もちろんチームには監督もいるのだが、ファン投票の結果を拒否できないルールになっている。つまり、監督の役目は練習の指導と選手情報のデータ作りという完全な裏方で、「よくそれでなり手があったな」と思わざるを得ない。
少年チームの監督時代、親の介入にうんざりした経験がある私からすると、親たちにこのアプリを渡して「お前らがやってみろ!」と言ってみたい気もするが、そうすると一番楽しくかつ興奮する試合の指揮を執ることができなくなるから、やっぱりやめておこう。試合を率いることのできない監督なんて、苦行しかない修行僧のようなものだ。
ファン投票下でも成績は十分
ロルカFCは2016年1月、元中国代表監督で企業家の徐根宝に買収され、このオーナー兼現場に口を出すマネージャーの下で2016-17シーズンには2部A(実質2部)への昇格を果たした。しかしその後、資金繰りが行き詰まり、17-18シーズン終了後に「成績降格+ペナルティ降格」で3部参戦を余儀なくされ、現在に至っている。今回のユニークなアイディアも、話題作りで投資家の目を引き付けよう、という狙いらしい。
現在のビクトル・ドゥス監督は今シーズン4人目。選手時代にデポルティーボ等で活躍したワルテル・パンディアーニ監督の下でシーズンをスタートさせるも、2019年末に辞任。2人目の監督は1試合ベンチに座っただけで“操り人形扱い”が我慢できずに辞め、3人目は監督ライセンスのない20歳の学生が暫定監督を務め、1勝1分という立派な成績を残して勇退した。
ここまでの通算成績は9勝8分6敗の7位、ファン投票制になってからも5試合で2勝2敗1分と悪くはなく、ファンの手でも目標の残留は達成できそうだ。
アプリは英語で、「Google Play」でも「App Store」でもダウンロード加入なので、ゲームで磨いた腕を実際のグラウンドで発揮したいみなさんはぜひ!
Photo: Getty Images
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。