本田圭佑、ボタフォゴ移籍が決定。サポーターは果てなき夢を見る
2月7日、ボタフォゴに移籍した本田圭佑がブラジルに上陸した。本拠地リオデジャネイロの国際空港に到着した際には3000人のサポーターが熱狂的に出迎え、翌8日の本拠地「ニウトン・サントス・スタジアム」でのお披露目には1万3000人が集まった。
#本田さんボタフォゴに来て
日本でも報道されている通り、そもそも今回の移籍を実現させたのはボタフォゴサポーターの力が大きかったと言える。彼らは移籍の可能性が浮上してからというもの、ソーシャルネットワークを生かして大きなムーブメントを起こしてきた。
「#本田さんボタフォゴに来て」という日本語のハッシュタグを使ってTwitterに投稿すると、このハッシュタグがTwitterで世界のトレンド3位、ブラジルでは1位になる勢いを見せた。
本田自身、ボタフォゴに来ることに関して入団会見で「簡単な決断ではなかった」としながら、「なぜここに来ようと思ったか。それはここのサポーターたちによるところが大きい。ソーシャルメディアやあらゆる方法でアクションを起こし、僕にコンタクトし、僕を待っていてくれた。(中略)サポーターの情熱が、僕にここでプレーすることを決めさせてくれたんだ」と、率直な思いと感動を語った。
フラメンゴ躍進の陰で苦悩の日々
では、なぜボタフォゴのサポーターはこれほどまでに本田の加入を熱望したのか。まだ彼が移籍を決断する前、数人のサポーターに聞いた時の言葉が印象深い。
「もっとボタフォゴとともに歓喜したい。ボタフォゴはもっと素晴らしいものであり、もっと熱狂できるものであるはずなんだ。もっとボタフォゴに注目してほしい。僕らはここにいる。僕らがボタフォゴを支える。それを見せたい。だから本田に来てほしい。夢に向けて一緒に戦ってほしい。みんなで戦うシンボルになってほしい」
口々に出てくるそのような思いが、大きなムーブメントに発展した原動力だと思えた。
ボタフォゴはここ数年、ブラジル全国選手権で中位に甘んじている。昨年は2部降格の危機に瀕し、最終的に20チーム中15位で1部に留まることができた状況だ。
かたや、リオ4大クラブのライバルであるフラメンゴは昨年、リオ州選手権、ブラジル全国選手権、コパ・リベルタドーレスの3冠を達成し、クラブW杯にも出場した。連日、フラメンゴのゴールシーンや選手たちの力強いインタビューがメディアを賑わせる中、ボタフォゴ関連のニュースといえば、給料遅配が2カ月、3カ月……というネガティブなものが目立った。
フラメンゴサポーターは、リベルタドーレス杯決勝に向かう日、優勝した日、そして凱旋帰国と、毎回、数百mにも渡って路上を埋め尽くし、メディアはW杯級の扱いで報道した。試合のたびに歓喜し、学校で、職場で、街のバールで、病院の待合室で、スーパーのレジの順番待ちで、ともかく至るところで賑やかに愛する選手たちのことを話していた。
本田は親しみのあるスター
そんな中で何カ月も過ごし、サポーターはフラストレーションの溜まるシーズンを終えた。そこに登場したのが本田の移籍の可能性を伝えるニュースだった。本田の名前は、日本サッカーに特に興味のないブラジル人でも知っている。
もちろん、すべてを解決する救世主になることを本田に求めているわけではないだろう。ホンダはクリスチアーノ・ロナウドやメッシとは違い、もっと親しみのある存在だ。ブラジルサッカーとも深い関係のある日本の、しかもW杯に3度も出ている日本代表のスターだ。だから、ここに来て一緒に戦ってほしい。俺たちが盛り上げる。俺たちが支える。そういう思い入れの強いムーブメントだった。
テレビでサッカーのトーク番組をしているブラジル人アナウンサーと話した時、彼も次のように言っていた。
「サポーターの力を見直した。彼らは『ボタフォゴにもっと注目してほしい、メディアでもっと取り上げてほしい』と思っている。そこに本田がマッチした。だからこそ我われは今、この移籍の状況がどうなっているか、実際に彼が来たらどう生かすのがいいのかを、毎日のように多くの時間を割いて話をしているんだ」
本田とともに、夢は広がる
そうしてやって来た本田を、サポーターは歓喜で迎えた。その中には「本田が来たからには、やってやるぜ」という健全なコールもあれば「本田が来たぞ、フラメンゴなんて×××だ」と、昨年、悔しい思いを抱えながら見てきたライバルを、ちょっと汚い言葉で揶揄するコールもあった。とにかく、本田の移籍を実現させたという充実感と、今後への期待感に満ちている。
入団会見で「ボタフォゴのために良いプレーをしたい」「あの空港にいたサポーターたちを幸せにしたい」と語った本田に対し、サポーターは「日本代表やCSKAモスクワで見せてきた彼のプレーを見せてほしい」という冷静な願いを口にする一方、「ボタフォゴの全国優勝に力を貸してほしい」「ボタフォゴの名前を世界に広めてほしい」「マーケティングの効果も期待している。クラブにはそれが必要だから」と大きな期待も語ってくれた。夢はますます膨らんでいる。
そのプレッシャーの大きさたるや。それでも、「そういうプレッシャーが好き」と会見できっぱり言った本田とともに、ボタフォゴサポーターは走り続けるに違いない。
Photos: Kiyomi Fujiwara, Getty Images
Profile
藤原 清美
2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。