25歳にして命を落としたイングランドのサッカー選手のために、国内外から続々とユニフォームが届けられている。
ジョーダン・シノットは、イングランド7部のマトロック・タウンに所属する選手だった。しかし1月24日の晩、外出した際に暴行を受け、25歳の若さで命を奪われた。すでに2名の容疑者が逮捕されている。
国内のみならず、海外からも続々と
フットボールを愛してやまなかったシノットのために、遺族は葬儀で歴代所属クラブのユニフォームを飾る案を思い付いたという。これをシノットのガールフレンドが故人の友人たちに相談したところ、所属クラブだけに留まらず、雪だるま式に規模が広がっていった。
メッセージアプリを介し、わずか1、2時間でイングランドの1~4部の全92クラブ、さらにスコットランドやノンリーグのチームまでがユニフォームを送ることに賛同してくれたという。
実際にリバプールの主将ジョーダン・ヘンダーソン、アーセナルの主将ピエール・エメリク・オーバメヤン、レンジャーズのスティーブン・ジェラード監督、アトレティコ・マドリーのイングランド代表DFキーラン・トリッピアーなどが「SINNOTT 25」と書かれたユニフォームをSNS上で公開した。
また、ベルギーやアメリカ、さらにはインドのクラブからもユニフォームが届けられた。
「いつかどこかで子供たちが……」
ユニフォーム集めに一役買ったのは、チャンピオンシップ(イングランド2部)のカーディフでプレーするFWダニー・ウォードだ。シノットとは同時期にハダースフィールドに在籍し、出会ってすぐに打ち解けて大親友になったという。自身の結婚式でベストマン(花婿付き添い役)を務めてもらうほどの仲だった。
「会って5分もしないうちに、昔から知っているような気分になった。本当に素敵なヤツだったんだ。一緒に遊びに行ったり、旅行に行ったりした。いつも連絡を取っていたのに……」
シノットの悲報の3日後、カーディフは2部で首位を走るウェストブロミッチ・アルビオンをホームに迎えた。ウォードは傷心と脳震盪の影響で欠場したが、チームは見事に勝利。その翌節にはウォードも復帰し、試合後に「SINNOTT」と書かれたアンダーシャツを披露し、涙で亡き友の冥福を祈った。
シノットへの哀悼の意は、レベルや国境を越えてフットボール界を1つにした。世界中から届けられたユニフォームは、葬儀のあとに寄付されて海外の恵まれない子供たちの手に渡るという。故人の兄であるトム氏は、これほど多くのユニフォームが集まったことで、改めて弟の人望を実感したと『BBC』に語った。
そして、ほんの少しだが気持ちが楽になったという。「いつかどこかで子供たちが、弟の名前が入ったユニフォームを着てプレーしてくれる。そう思えることが、残された家族にとっては心の安らぎになる」
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。