ビッグクラブの注目がさほど集まっていないダイヤモンドの原石を発掘し、自分たちの手で磨き上げ、チームの主軸を生み出すのは中堅クラブの常套手段だ。この戦略が機能しているドイツ勢と言えば、ボルシアMGの名が真っ先に挙がる。いわば“育成機関”の姉妹クラブを世界中に持つRBライプツィヒとはワケが違う。ボルシアMGが直近の5年以内に国外から獲得したニコ・エルベディ、ラースロー・ベネス、デニス・ザカリア、アラサヌ・プレアはいずれも主力となり、現在の首位躍進に大きく貢献。今夏にギャンガンから900万ユーロで獲得した22歳のFWマルクス・テュラムも完全に“当たり”で、公式戦27試合10ゴールと大暴れしている。
気になるのは成功続きのスカウティングの実態だ。ボルシアMGはかつてデンマークやベルギーでの発掘に勤しんでいた。しかし、近年はスイスとフランスを重点的に調査。この変化について、移籍交渉のエキスパートであるマックス・エバールSDは『ビルト』紙に「この2カ国の教育は素晴らしい。以前ならフランスの若者はイングランドを目指したが、今はブンデスリーガも彼らにとって興味深くなっている」と語る。もっとも、発掘場所を変えただけで次々と掘り出し物が見つかるはずがない。スカウティングの成功を陰で支えているのは有能なスタッフたちだ。
クラブにフルタイム職員として正規雇用されているスカウトは、チーフスカウトを務めるクラブOBのマリオ・フォッセンら計13人。これはバイエルンやドルトムントを上回る規模で、スカウト部門に割いている予算は年間500万ユーロに及ぶ。もちろん、世界中に点在するスカウトとも業務提携しており、スイスやフランス以外のスカウト網にも抜かりはない。最近ならMLSのニューヨーク・シティFCに所属する16歳(発表当時)のアメリカ人DFジョー・スケイリーの獲得内定(18歳未満のため、契約は21年1月から)にこぎつけた通りだ。
獲得の意思決定者であるエバールSDを含め、目利きに優れるボルシアMGの強化部門に認められたスケイリーが数年後、ザカリアやベネス、あるいはバイエルンへ移籍したMFミカエル・キュイザンスのように飛躍していても不思議はないだろう。
Photo: Bongarts/Getty Images
Profile
遠藤 孝輔
1984年3月17日、東京都生まれ。2005年より海外サッカー専門誌の編集者を務め、14年ブラジルW杯後からフリーランスとして活動を開始。ドイツを中心に海外サッカー事情に明るく、『footballista』をはじめ『ブンデスリーガ公式サイト』『ワールドサッカーダイジェスト』など各種媒体に寄稿している。過去には『DAZN』や『ニコニコ生放送』のブンデスリーガ配信で解説者も務めた。