名前を見れば分かる通り、彼は現在イングランド2部のフルアムに在籍する英国系の選手だ。英国人の父を持ち、タイで生まれたあとシンガポールで育ち、2016年に父の故郷であるイギリスに移ると、翌年にフルアムのアカデミーに加入した。
U-23日本代表は残念な結果に終わったが、今回のAFC U-23アジアカップでは、他のチームにも気になる選手がいる。それが西野朗監督率いるタイ代表のMFベン・デイビス(19歳)だ。
名前を見れば分かる通り、彼は現在イングランド2部のフルアムに在籍する英国系の選手だ。英国人の父を持ち、タイで生まれたあとシンガポールで育ち、2016年に父の故郷であるイギリスに移ると、翌年にフルアムのアカデミーに加入した。
長短のパスを蹴り分けてゲームを組み立てるプレーメーカーは、シンガポールの年代別代表で活躍し、2018年にはA代表にも招集された(試合には出場せず)。2019年8月にはリーグカップでトップチームデビューを飾るなど、何もかも順調そうに思われたが、彼は避けては通れない大きな壁にぶつかることになる。それがシンガポールの徴兵制度だ。
例外がほぼ認められない兵役義務
シンガポールでは18歳の男性に2年間の兵役が義務付けられており、進学以外の理由で兵役の延期が認められることは皆無に等しいという。数少ない例外の1人が2016年のリオデジャネイロ五輪でシンガポール史上初の金メダリストになった水泳のジョセフ・スクーリングだが、彼の時でさえ兵役延期に批判の声が上がったほどだ。
デイビスも延期を申し出たが、やはり認めてもらえなかった。2018年7月にフルアム(当時はプレミアリーグ所属)とプロ契約を交わし、シンガポール人初のプレミア契約選手となったが、「兵役延期の条件は満たさない」と判断されてしまった。
彼に期待するファンは落胆し、兵役の延期を訴える書名がネット上で2万件も集まったという。SNSにはフランス代表のキリアン・ムバッペに軍服を着せたコラージュ写真がアップされ、「もしエムバペがシンガポール人だったら」という書き込みもあった。
徴兵を拒否しタイ国籍を選択
最終的にデイビスが出した答えは、シンガポールに戻らないことだった。それにより、2019年2月にシンガポールの国防省から「軍紀違反により罰金と最高で懲役3年」の法的責任を通達されてしまった。これでシンガポール代表の道が断たれたどころか、帰国することも許されない。その代償を払ってまで、彼はサッカー選手のキャリアを優先したのだ。
シンガポール、タイ、イングランドの国籍を選べる彼はタイ代表でプレーすることを選び、今回のAFC U-23選手権に出場してグループステージ突破に貢献している。シンガポールの通信社『CNA』のインタビューでは「僕にとって母国はタイとイングランドだ」と語り、「母は昔から僕がタイ代表になることを期待していた。母を喜ばせたい」と付け加えた。「2年間は長い。(もし徴兵に応じたら)今ほど高いレベルでプレーすることは無理だろう」と19歳は少し戸惑いながら語っていた。
現在フルアムは2部で4位に付けており、プレミア昇格を狙える位置にいる。まだリーグ戦ではデビューを果たしていないが、もしかすると来シーズンはプレミアの舞台に立っているかもしれない。その時はシンガポール人初ではなく、タイ人初のプレミアリーガーと呼ばれるのだろう。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。